22話 妨害されていますわね……
生贄ちゃんたちの動向がなんとなく頭の中へ流れてくる。これが『ストーキングLv20』の能力ね。異世界だから納得できますけど地球で存在したらとんでもない能力よ、これ。
「北に向かうってことは、いったん【アイン】の街を通るんですかね?」
「奴隷商人のアジトがあったのは西の外れだからそれはないと思うわよ。きっと【アイン】の外壁を回って北の森へと侵入させるつもりじゃないかしら」
「な、なるほど」
「さ、わたくしたちも向かうわよ。柚子」
「はい。バンザーイ」
もうこれもこなれたものね。
「じゃあ飛ぶわよ?」
「はい!」
いつも通り柚子を抱えて飛翔。しかし…いつも通りでないものが上空にいた。
「な、なんですの!?」
「ひっ! これ、鳥じゃないですか!?」
赤い目……明らかに精神状態が正常でない鳥たちがわたくしたちを取り囲んでいる。・・・鳥だけにね。あらやだ、低俗ですわよ、わたくし。
「どう考えても【魔蛇】、もしくは側近の[黄金の蛇]の差し金ね。……ご機嫌よう鳥様たち。あなたたちに構っている時間はないの。去ってくれる……なんてことはないだろうからいいわ。今からわたくしは全力であなたたちを攻撃しますわ。もし死にたくなければ……逃げなさい!」
威嚇のつもりで声を張るも、鳥たちには通じないようでわらわらと集まるばかり。やるしかなさそうね。
「柚子、わたくしに掴まる姿勢になりなさい。そして……落ちるんじゃないわよ?」
「へっ? ちょ、アリス様!?」
鳥たちを引きつけるために急上昇! 予想通り鳥たちもタワー状に伸びてわたくしを追ってきたわね。ふん。好都合だわ。
「知力の無さを恨みなさい。『ライトニング!』」
ほぼ全力で『ライトニング』を放つ! 今までのように分けるイメージではなく、直線のイメージで真下に放射!
「「「グキャァァ!!」」」
数百と取り囲んでいた鳥たちのほとんどを雷で焼き尽くした。残った数十羽は困惑したようにふらふら飛び、やがてどこかへ飛び去っていった。ふぅ。なんとかなりましたわ。
「柚子、大丈夫?」
「う、うぷ……よ、酔いました……」
「あらら。『応急手当て!』 どうかしら?」
「は、はい。なんか良くなった気がします」
便利ね。この魔法。というか魔法全般便利ですしイメージを強く持てば作れるから【魔蛇】との戦いが終わったらまた新しく量産していきましょうか。
「さ、今度こそ生贄ちゃんたちを追うわよ」
「はい!」
飛びなら加速していき数分で【アイン】の街へ。露骨に近づいて後を追うのもアレですし、少し距離を置いておきましょうか。
「アリス様、今ユリアンちゃんとロマンちゃんはどのあたりにいますか?」
「ちょうど北の森への入り口あたりよ。どうやら2人だけで来たようね」
まぁ【魔蛇】に遭遇するともなれば当然誰もついて行きたがらないですわよね。
【アイン】の中央地区辺りで一旦着陸して徒歩で北上することに。また鳥みたいな害獣を向けられたらたまったものではありませんものね。
生贄ちゃんたちの居場所をなんとなく掴むと、だいたいわかってきたわ。
「ふぅん。柚子、【魔蛇】の生息地がわかったわよ」
「えっ! 本当ですか?」
「えぇ。この進路、恐らく昨日話していた神殿跡地というところね。きっとそこに【魔蛇】がいるんだわ。南東に大蛇、西の門近くに5000の蛇、北に本体と黄金の蛇。まるで【アイン】を取り囲むように自分の領地としていたのよ」
抜け目ないわね。相当の頭脳の持ち主である可能性が高いわ。注意しないと。
「駆け出し冒険者の中から魔王に反抗できそうな勢力を見張っていたってことなんでしょうか……」
「恐らくね。ここからはわたくしの仮説だけれど、約50年に一度のペースで女の子を攫うのはきっと優秀な冒険者が産まれることを防ぐためなのではないかしら。今回の生贄ちゃんたちもレベルはそこそこ高かったですしね」
親のレベルや特性が子どもに遺伝する可能性はたかそうですし。事実わたくしの冒険者カードに記載された魔法やスキルもほとんどがお父様譲りですわ。
「なるほど……どんな理由であれ絶対に許せません!」
「えぇ。今日、この街を縛る蛇の円環を解くわよ!」
「はい!」
まぁこの街を救う云々は別に重要でもないのですけどね。わたくしたちが日本に帰るために【魔蛇】を倒す必要があるから結果的に【アイン】も救われるだけですわ。勘違いしてはダメよ?
「さ、わたくしたちも森へ入りましょうか。もう一度飛ぶわよ」
「はい!」
と、思いっきり飛翔したところで上空から影が……?
「ってなんですの!?」
上空を飛翔していたのは超巨大な鳥。完全にわたくしたちに敵意を向けていますわね……。
「す、≪スキャン≫」
≪ダイナソーコンドルLv44≫
こ、この上空でこのレベルの相手と戦えというの!? 無茶な話ねまったく……。
「アリス様! ここは私に任せてください! 一対一なら"これ"の出番じゃないですか?」
柚子が得意げに持ち上げたのは紫色のオーラを放つ鞘付きの刀。確かにそうね……。レベル的にも無理はないでしょうし。
「わかったわ。わたくしが支えながら飛ぶから思いっきり暴れなさい!」
「はい。お任せください! 行くぞ魔獣! [ムラクモ ]、解放!」
[ムラクモ ]を鞘から抜くと今まで抑えられていたオーラが全て溢れんばかりにこぼれ落ちる。なんて存在感なの……。
「行きます! 『紫電:一刀両断!』」
支える手にグッと衝撃が走る。反作用がとんでもないわねこれ……!
「グキョオオオオ!」
叫ぶ超巨大な鳥は[ムラクモ ]で放った柚子の魔法剣でも一撃では沈まない。まさか痛覚を遮断したりしているのかしら。
超巨大な鳥は嘴をゆっくりと開き、口先を下に向け始めた。
「はっ! 柚子、来るわよ!」
「は、はい!」
「グオオオオ!」
激しい大気の震えと共に炎の渦が上空から迫ってくる。その様はまるでこの世の終わり。規模だけならわたくしの『絢爛の炎』にも引けを取らないほどの爆炎が降り注がれる。が、
「力を貸して、[ムラクモ !]行くぞ……『紫電:十文字斬り!』」
紫色のオーラと紫色の雷が混ざり合い、色を濃くしてゆく。その刀身から放たれた十文字は炎を切り裂いてわたくしたちに降りかからぬよう道を作ってくれた。
「よくやったわ、柚子!」
「はい! 大成功です!」
ただまだ当然終わりではない。この鳥を倒さねばまたあの一撃が来る。魔法を使いすぎると疲れを感じるところから察するに限界はあるはず。つまり柚子が【魔蛇】と戦う前にバテてしまうかもしれないの。それだけは絶対に避けなくてはなりませんわ。
「柚子、次で決められるかしら」
「かなり警戒しながら飛んでますからね……少しでも隙があれば仕留められると思いますが今のままだと厳しいです」
「ふぅん。なら隙を作ればいいのね」
「……お願いできますか?」
「もちろんよ。可愛い使用人のためにひと肌脱ぐとしましょう」
「きゃっ!」
柚子を支える手を片手に。というより右手側に抱き寄せる姿勢をとる。
「ほんの少し窮屈かもしれないけど、我慢なさい。いくわよ……『フレイム!』」
あくまでわたくしの任務は隙を作ること。なら[パーフェクトリング]を使って消耗を抑えることに専念しましょう。
「グギャァ!?」
小さい炎に巨躯を誇る鳥は笑うように鳴く。ふん。隙だらけね。
「柚子!」
「はい! 『紫電:一刀千刃!!!』」
柚子の大技が炸裂。一振りで千本もの刃が超巨大な鳥を襲う。一撃一撃は他の技より劣ろうとも千本も集えば決定的な一打を与えられた。
「グ……ギ……」
力無く呻いた鳥はそのまま落下。字のごとく撃ち落とされた。
それにしてもこのクラスの強さを誇る魔獣を妨害として使用してくるなんて……どれほど強いのよ、【魔蛇】というのは。
『魔王の娘ですが勇者パーティが百合天国だったので裏切ることにしました。』の連載を開始しました!
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