18話 黄金の蛇探しですわよ①
「さぁ! クエストに出発するわよ!」
「はい!」
元気よく答える柚子。うん、やる気があっていいわね。
いつも通り柚子をバンザイさせ抱き抱えて飛ぶ。今回のクエストの捕獲対象である[黄金の蛇]はどうやら北部の森に出現するそうなので【アイン】は素通りしますわ。
北部の森の入り口に降り立つと少し寒気が……。大蛇を倒した南東の森もそうだけれど、クエスト時の森ってどこか怖いのよね。
「さ、さぁ行くわよ、ここで固まっていても仕方ないわ」
「は、はい!」
特にマジックアイテムを新調したりしていないけれど、まぁ大丈夫でしょう。Lv100のわたくしとLv65の柚子に脅威になるものはいないはずですしね。
森に入るとやはり南東の森と同じで薄暗い。今更だけれど[黄金の蛇]をこの広い森からどうやって探し出すのかしら。それに気になるのがこのクエストの詳細用紙に書かれた注意書き。
≪この季節になると【武装熊】が大軍で襲ってくることもあるのでその時は諦めましょう≫と。いや諦めましょうってどういうことよ。対処のしようがないということなのかしら。
「アリス様、いったい森の中のどこに向かえばいいんですか?」
「詳細用紙によると前回と前々回の目撃場所は近くて、神殿跡地の近くで見たそうよ」
「神殿跡地……そんなものがあるんですね」
「クエスト詳細用紙に詳しく書かれていたけど興味ないから読んでいないわ。興味あるなら柚子、読んでみなさい」
「は、はい。≪北部には大昔【アイン】の街と【イリス】の街が共同で讃える神を祀っていた神殿がある。その神の力で蛇は黄金色に輝くようになったのでは。と言われている≫・・・だそうですよ」
結局わかったことはバックボーンだけじゃない! どうやったら[黄金の蛇]が見つかるかだけが知りたかったのにまったく……。
「とりあえずその神殿跡地とやらに向かいましょうか。さらに奥よね!」
「はい。奥に進むと魔獣も強くなっていくから注意、だそうです」
「問題ないわ。わたくしたちのレベルを忘れたの?」
「そ、そういえばそうでしたね」
「ウオオォーーーン!」
……ちょうど来たわね。
「あ、アリス様……」
「ええ。狼……それもかなり大きいわね」
南東の森の魔獣と比べてかなり強そうね。全体的に灰色の毛でも切れ跡のある左目だけは毛が白く変色している。
「『スキャン!』」
わからない相手にはスキャンが有効ね。
≪ヘッドウルフLv27≫
「レベル27ですって!?」
【アイン】の街へ攻めてきたらひとたまりもないじゃない。なぜこんな強者がずっと森で密かに生活しているのかしら……。
「ウオッッ!」
「来るわよ!」
「はい! 『紫電:抜刀』」
紫色の雷を纏わせた刀で狼に襲いかかる……が、軽い身のこなしで避けてしまった。
「そ、そんな……!」
この異世界に来て初めてトントンといかない相手ね。柚子が驚くのもわかるわ。レベル的には大蛇の方が上だけれど慢心していない分≪ヘッドウルフ≫のが強敵だわ。
「ウアルッ! ガルゥア!」
「柚子! 危ない!」
「えっ……」
「うあっ!」
柚子を突き飛ばしてかばう形になる。くっ……肩に爪が……。
「き、貴様ぁ! アリス様に何をする! 『紫電:一刀千刃』」
紫色の雷が無数の刃を作り狼へと襲いかかった。柚子の全力の攻撃を前に狼はなすすべもなくバラバラに砕け散った。
「アリス様!」
「大丈夫よ、これくらい。ちょっと……何も泣くことないじゃな……」
言い終える前に柚子が抱きついてきた。負傷した肩に痺れる痛みが走ったことをあえて今言うほどデリカシーのない女ではないわ。
「ごめんなさいアリス様……私のせいで……次は絶対油断しません。私がアリス様をお守りします。だから私を捨てないで……」
私に抱きついて震えながらそんなことを言う。バカね……。
「柚子を捨てるわけがないでしょう? 貴女は立派なわたくしの従者よ。感謝してもしきれないくらいだわ」
「でも……でも……!」
肩から滴る赤い血を見て柚子が震えを強める。
「平気よこんなの。『応急手当て』。ね?」
肩の引っかき傷は綺麗に治る。ただ血は相当出たでしょうから貧血に注意ね。
「さ、気を取り直して先に進むわよ?」
「……はい!」
ゴシゴシと目をこすって涙を拭う柚子。うん、強い子ね。
神殿のあると言われている北へ行けば行くほど薄暗く、また寒くなっていく。
「結構冷えてきたわね……」
「アリス様、もし寒かったら私の上着を……」
「いいわよ。それだと柚子が寒くなるじゃない」
先ほどのことをまだ引きずっているのか自己犠牲を払おうとするわね。これはどこかでアフターケアが必要ね。
「おい貴様ら、何をしている!」
突然声をかけられた!? 一体どこから……と思ったら声の主は木の上に。甲冑に剣……冒険者かしら?
「わたくしたちは[黄金の蛇]とやらを探しているの。あなたたちは?」
「[黄金の蛇]だと?つまり【魔蛇】が復活すると言うのか!?」
突然慌て出す冒険者(?)。何なのかしら……。
「お、おい! 逃げるぞ! 【魔蛇】に出会いでもしたらひとたまりもない!」
あら仲間がいましたの?
「冒険者のはしくれなら【魔蛇】に立ち向かおうとは思わないのかしら?」
「お、俺たちは冒険者じゃねぇ! 盗賊だ!」
あぁ なるほど……。それは別に命をかける必要はないわね。
「……ん? よく見たらあんたらいいもん身につけてんな……」
「兄貴! あれ1つ8万はするマジックアイテムっすよ!」
「ほぉん……」
あら? もしかしたら「そっち」方面の展開に持っていかれるのかしら。
「ふたりともよく見たら上玉じゃねぇの…….へへっ」
ああ……やはりそっち方面に行くのね。
「アリス様……」
「柚子。手出し無用よ。今度はわたくしがやりますわ」
狼程度にダメージを受けて少々憤りも感じていますし……ここでこのクズどもを嬲って清々しましょう。あらやだ、はしたない言葉遣いになってしまいましたわね。
盗賊の人数は4人。楽勝ね。でも一応……
「≪スキャン!≫」
「おおう!?」
≪シゲールLv6≫
レベル6、まぁ一般冒険者に毛が生えた程度の強さってところかしら?
「わけわかんねぇ魔法を使いやがって! 『ライトニ……』」
「『ライトニング!』」
「うがぁっ!?」
発動前にこちらから先制ですわよ。わたくし、クズに先を行かれるのはあまり好きじゃないの。手加減したからまぁ死にはしないでしょう。無闇な殺生は避けたいですわね。
「こ、この!『フレ……』」
「『フレイム!』」
「うごッッ!!」
「「ひっ!?」」
一瞬で2人を倒したからか、腰が抜けてしまったようね。
「戦う意思が無いのなら伸びた2人を連れてとっとと逃げなさい」
「くっ……」
「ふ、ふざけるな! だれが貴様のような小娘に! はぁ!」
魔法では敵わないと思ったのか剣で攻撃を仕掛けてきた。はぁ。浅はかね。
「『ダークネス』」
わたくしの前に闇の渦を召喚。
「ほら、近づいてごらんなさいな」
「くっ、くそっ!化け物め!」
結局伸びた2人を連れて逃げていった。腰抜けね。もう少々骨があっても面白かったのだけれど。
「お疲れ様でした、アリス様」
「ええ。まぁ[黄金の蛇]を探すための準備運動程度にはなったわね」
さ、行きましょう。そう思った次の瞬間だった。
「ひっ!」
前からズン……ズン……と重たい足音が聞こえてくる。どうやら……[黄金の蛇]を探す前にはかなり前途多難なミッションがあるようね。
現れたのは熊。しかし……ただの熊ではなく先ほどの盗賊たちよりよほど豪華な装備を着た熊たち。その数およそ50!
「あ、アリス様……」
「大丈夫よ。数で押し切られてどうにかなるものではないわ」
おそらく群れる生き物だからレベルは低いのでしょう。高くて15とかね。でもまぁ念のため確認をしておきましょうか。
「≪スキャン!≫……なっ!?」
そこに表示されたのは……
≪武装熊Lv33≫
まさか……このレベルの相手を50体も相手しろと言うの? 冗談じゃないわね……。