12話 お買い物ですわ♪
「さぁ、話を聞かせてもらうわよ?」
「ま、また来た……」
領主が何か小声で呟いたみたいだけど長くなるから不問にしてあげましょう。甘いわね、わたくしも。
「まず【魔蛇】について聞こうかしら」
「ま、【魔蛇】は魔王の7人の幹部のうちの一柱というのはさっきお伝えした通りです…。というかさっき説明したことがすべてですよ! 私たちだってほとんど何も知らないんですから! 私には決まった生贄を認可する仕事があるのですから今日はお引き取り願えませんかな?」
生贄……そういえば魔蛇は街の娘を何人か生贄に捧げろと要求してくると言っていましたっけ。まぁそれはいいわ。
「まだ聞きたいことがあるわ。魔王にはどうやったら会えますの?」
「ま、魔王に会う!?」
「えぇ。わたくし、魔王を倒さないとにほ……故郷に帰れなくて困っていますの」
「魔王の正体は不明ですが……言い伝えによると魔王の幹部7柱をすべて倒さないと魔王は倒せないといわれています」
なるほど……つまりいずれ魔蛇は倒さなければならない相手ということね。
「他にも魔王の幹部はいるのでしょう?」
「この街とは関係ありませんが魔蛇の他に魔人、魔女、魔弾、魔導士、魔龍、魔蟲の7柱が幹部といわれております」
それらすべてを倒してから魔王を倒す……なかなかに気が遠くなる話ね。
「情報提供感謝しますわ。ではまたいずれお伺いしますのでその時までお元気で」
「は、はいぃ!」
二度と来るな。という表情を一瞬浮かべた領主は顔を隠すように深くお辞儀した。
「はぁ…。なかなかに大変だということがわかりましたわ。正直魔王をサクッと倒して終わりだと思っていましたのに…」
「そう上手くいきませんね。この後はどうします?」
そのまま島に帰るのもいいけど…ちょっと時間があるわね…。
「では本格的な買い物は明日にするとして、今から何か便利なものでも買って島へ持っていきません? 暮らしが少し豊かになるかもしれないわよ?」
「いいですね! 探してみましょう!」
街中にはついさっき蛇の大軍が押し寄せてきていたとは思えないほどの活気が渦巻いていた。有事が終わればすぐに経済活動。切り替えの早い人たちですこと。
「お店ってどこにあるんでしょうね…?」
「相変わらずこの街のことはわからないものね。蛇の討伐の報告がてら組合で聞きましょうか?」
「そうですね! そうしましょう!!」
・・・と、思ったのだけれど……
「「「かんぱーーーい!」」」
「ウハハッ! 飲めや飲めや!」
「オラ一番の美女を連れてこいヤァ!」
はぁ。これじゃあ行く気にもなりませんわね。
「アリス様……そろそろこの者たちを斬りますか?」
「おやめなさいな。下手に目立ってどうするのよ」
魔王を討伐する上でできるだけ目立たないのは必至。Lv100だと知られたら勝手に英雄扱いされたり邪魔だと政敵から押さえ込まれる可能性だってありますもの。後者なら最悪力任せでどうにかなるのだけれど……前者はどうしようもないわね。無辜の民を巻き込むわけにもいきませんし。
「でもどうしますか? このまま街をふらふらして買物ですか?」
「じゃあお役場に行きましょうか。あそこならほとんど人もいないんじゃなくて?」
「あー! そうですね! むしろ最初からお役場に行くべきだったかも…」
たしかに。という言葉は飲んでおきますわ。完璧なわたくし像のために知らないことはできるだけ隠したいもの。
ではお役場に……と思ったのだけれど…
「今回の戦闘でウチの壁が壊れたのよ! 補償はあるのよね?」
「また魔獣がくることはあるんですか!?」
・・・一般市民の質問責めでてんやわんやしてますわね…
「邪魔しても悪いですし自力で探すとしましょう」
「はーーい」
先程蛇が襲いかかってきたのは南門と書いてあった。あの辺りにはレストランが少しと住宅街。役場や組合があるのは東。ということは…西か北に行けば大きな買物施設があるかもしれないわね。
「では西に向かってみましょうか」
「はい!」
歩くこと十数分……ビンゴね。
「うわぁ…!!」
目をキラキラさせる柚子に自然と視線が…!
「アリス様! すっごい賑わいですね!」
「そ、そうね。こんな市場、日本では見たことないわ」
溢れかえるほどの人・人・人! それに応ずるためにとんでもない種類のお店が立ち並んでいた。
「ちょうどいいわ。晩御飯もここで済ませてしまいましょう?」
「そうですね! うわぁ…異世界初グルメだぁ…」
そういえばそうね。【アイン】に来てからもずっと無人島食だったわ。
「何か食べたいものありますの?」
「いえ…そもそも異世界の料理がどんなものかわかりませんし」
「それもそうね…じゃあ適当に入ったお店で【アイン】名物でも頼んでみましょうか」
「はい!」
とは言うものの日本にいた頃は高級レストランしか行ったことがなかったらどこに入ればいいかわからないわね……。本当に適当に決めてしまいましょうか。
「じゃあここにしましょう」
決めたのは華やかでも地味でもない恐らくふつうの、大衆的なレストラン。
「いらっしゃいませ」
「ごきげんよう。この街の名物を教えていただけるかしら?」
「先程蛇の大軍が到来したのはご存知ですか? 50年に一度、【アイン】には蛇が攻めてくるんですけどそのたびに蛇を食べるんです。いかがでしょう」
えぇ……蛇だと無人島料理と変わらないじゃない。
「め、名物ならそれをいただきますわ。後はおまかせで」
「かしこまりました」
「・・・アリス様、結局蛇って……」
「言っちゃダメよ柚子。言ったら負けだわ」
出てきたのは蛇の煮込み。名物と言うだけあって確かに美味しいですわね。
「無人島で獲れる蛇より美味しいですね!」
「えぇ。Lvが高ければ高いほど美味しいのかしら」
「でも大蛇を食べたいとは思いませんよね・・・」
確かに。大蛇は食べたくないわね……可食部は多そうですけど。
その後のコース料理も食べたら8000円に。かなーり安いわね。日本でコースと言ったら2万円を切ることなかったのに。
「アリス様! 無人島に何を買っていきます?」
「そうね……何か暮らしが便利になれば、と思っていたのだけれど3年も住んでいまさら文句はないわね……」
「まさに住めば都ですからね……」
慣れって恐ろしいわ。やろうと思えば宿だって借りれるのに普通に無人島生活を継続中ですし・・・。
「……やっぱりマジックアイテムを購入します?」
「……そうね、その中でもさらに無人島生活でも使えそうなものを探してみましょう」
というわけでせっかく来た道を引き返して組合前のマジックアイテムショップへ。
「いらっしゃい! おっ! その服売る気になったのかい?」
「そんなのではありませんわ。今日もお買い物ですわよ」
「そっか! 気が向いたらいつでも言ってくれよな!」
元気な店主だこと。
「うーーん、アリス様! これなんかどうです?」
「どれどれ……[コールドスリープ]。ふぅん、食料品の保存に使えそうね」
「って高!? 20万円!?」
「それを買ってしまうと明日のショッピングはできなくなるわね」
「むむむ……我慢ですね」
思えば魔法なるものを使えるようになったわたくしたちに武器以外のマジックアイテムなんて必要なのかしら。たいていの魔法はイメージしたら使えるというのに。実物を見たらイメージが湧きやすいという面は確かにあるのだけれど……。
「ん? こちらは……」
「おっ! それは試作段階のものだけど惚れ香水だ! 自分に使って相手に嗅がせれば一撃でベタ惚れよ。 買ってみるかい? 今なら3万円でどうだ?」
「……買いましたわ!」
「あぁでも気をつけな。すでに惚れられてる相手に使っても……」
「アリス様! 何を買ったんですか?」
「な、内緒よ内緒! さ、もう島に帰るわよ」
「ええ!? 私まだ何も買ってないですよ!?」
「明日もあるのだからいいじゃない! さ、ほら!」
「何をそんなに急いでるんですか……」
猛スピードで飛んで島へ! ……さぁ、どうなるか見せてもらおうじゃないの!