11話 蛇の大群ですわよ?
ゴーーン、ゴーーンと鐘の音が街中に響いている。きっと緊急事態を知らせるための鐘なのでしょうね。人々が逃げ惑う姿、家の窓を全て閉じる姿が見える。
組合に到着すると普段とは比べものにならないほどの人で賑わっていた。
「ほへぇ……本来なら冒険者ってこんなにいるんですね!」
「逆に普段はだいぶサボっているとも考えられるわね」
耳をすますと組合の中から声が……
「蛇の大軍は40年前にも現れている。ここにいる老師たちはそれを退いてきた! 今回も我らの勝利とする!」
「「「うぉぉおおおおおお!!!」」」
暑苦しいったらありゃしないわね。
「あ、アリス様!? どちらへ行かれるんですか?」
「先に門へと向かうわよ。男どもの叫び声なんて聞いても百害あって一利なしですわ」
「もう! 門なんてどこにあるかわからないじゃないですか!」
「わかるわよ」
「え?」
「街の人たちが逃げてきている方向に進めば門があるわ。まさかこの逃げ惑う人々がわざわざ蛇が迫ってくる方へ逃げる好き者じゃないでしょう?」
「な、なるほどぉ! 流石です! アリス様!」
「おやめなさいな恥ずかしい。行くわよ?」
「はい!」
歩くこと10分と少々で【アイン】の門が見えてきた。飛んで来た時に意識していませんでしたけどこの街は壁に囲まれているのね。防衛に関しては結構強そうじゃない。
門はかなりの大きさがあり物見台のようなものも付属されてある。
「ま、わたくしには関係ないわね。柚子、ちょっと見てくるわ」
「は、はい! お気をつけて」
フワッと『飛行』で空へ。門の外へ視線を向けると……蛇の大軍がちょうどこちらへ迫ってきているのが見えた。うわっ……想像以上に気持ち悪いわね……。
「アリス様ー! 見えますかー?」
「えぇ。地面が鉄色になっていてモゾモゾうごめいているわ。正直すっごく気持ち悪いから見ない方がいいわよ」
「ひぇぇ……」
どれ、試しにLvを測っておきましょうか。冒険者が集まってきたら自由に動けませんしね。届くかしら……
「『スキャン!』」
蛇の大軍の先頭に向けてオレンジ色の輪っかを放出! どの蛇に当たったかは知る由もないが情報は表示される
≪ヴァレットスネークLv4≫
Lv4……確か成人男性の平均Lvが3で駆け出し冒険者の平均Lvが5でしたっけ。一般男性以上駆け出し冒険者未満といったところね。
「アリス様! いかがでしたか?」
「Lv4よ。まぁ個体によって上下するとしても推定最大Lvは8くらいで見積もればいいと思うわ」
「了解しました。ならLv9として戦って大丈夫そうですね!」
「えぇ。ボロは出さないようにね。わたくしもLv12として戦うから注意しておくわ」
……あら、思っていてたより早かったわね。
「柚子、隠れるわよ」
「えっ? ちょ、アリス様!?」
柚子の手を引っ張ってレストラン風の建物の陰に隠れる。ちょっとデートみたいで緊張しましたわ。
「あ、アリス様?どうしたんですか?」
「冒険者が集まってくるわよ。『飛行』なんてしてたら怪しまれるでしょう?」
昨日の大蛇の反応から察するに『飛行』はかなり難しい魔法に分類されると推測できる。一応冒険者カードでも隠蔽しておいて良かったわ。
組合にいた冒険者たちが門前へ全力疾走で集まってきた。戦う前に疲れて何がしたいのよもう。暑苦しいわね……。
「行くぞ! 我らの地を守り抜くのだ!」
「「「うぉぉおおおお!!!」」」
耳をつんざくような叫び声に自然と片目を閉じて耳を塞いでしまった。本当にうるさいわね……よく見たら女の子だっているじゃない。ああいうノリについていけてるのかしら?
「開門!」
門が重い音を鳴らしながら開いていく。蛇たちは先程見た時の速度から察するにまだ門から150メートルくらいは離れた場所にいるわね。
ドドドドドッ という足音とともにみんな外へ出てしまった。嘘でしょう!? 門内へ入ってきたらどうするつもりなのよ……!
とりあえずもう身を隠す必要はなさそうね。
「柚子、行きましょ?……ん?」
何かが地面に落ちていますわね……緊急クエストの報奨金……蛇一体で1000円!?
確か蛇は5000匹……つまり500万円が動くということね。って大蛇と同じ値段じゃないの! あんな森に入るくらいならこの蛇たちを全滅させたほうがお得でしたわね……。
「柚子、お小遣い稼ぎよ。ここで得たお金は半分お買い物に使うことを許可するわ」
「えっ! 本当ですか?」
「えぇ。でもLvがバレないようにね。張り切り過ぎないこと」
「はい! 気をつけて狩ります!」
「よろしい。それではわたくしたちも行くとしましょうか」
門から出ると様々な冒険者たちが蛇と戦っていた。ある者は剣で。ある者は弓。またある者は魔法で。現代日本では考えられないような景色が広がっているわね。
「わたくしはコレでちょうどいいわね」
取り出したのはマスターリング。できあいの魔法なら威力調整も楽ですし。
「『ライトニング!』」
蛇の大軍の中に魔法を放つ。かなり弱めた電撃でもLv4前後であろう蛇たちは一瞬で絶命する。かなり弱いわね。でも……よく見たら苦戦している冒険者もいるわ。駆け出し冒険者の集まる街に5000匹の蛇はかなり痛手と考えて良さそうね。
「うりゃあ! とりゃあ!」
柚子はもう魔法すら使わずに蛇を切り続けている。まぁあの子の心配はいらなそうね。
「フハハハッ!! 『フレイム!』『フレイム!』」
癪に触る声が聞こえると思ったら…最前列にはあのクズ息子がいたのね。まぁこの街の中では最高Lvのようですし当然ですか。……あら?あのクズ息子が連れている子たちは前と違う子たちですわね……。戦闘できなくなるほど強く手刀を入れたつもりはないのだけれど…。
「シャッー!!!」
「あら」
ザクッと手刀で襲いかかる蛇を一刀両断した。ちょっとよそ見が過ぎましたわね。
「キ、キャーーー!!!」
少し離れたところで少女の叫び声が聞こえてきた。よく見ると100匹近い蛇に囲まれている。あれはなかなか厳しそうですわね。
周りを見ても誰一人として助けようとはしない。
「あ、アリス様?」
「……何よ」
柚子が私の顔をチラチラと伺ってくる。
「た、助けないのですか? あの子を……」
「彼女だって冒険者。こうなる覚悟はしていたはずよ。それにみんなから離れて戦っていたのは彼女じゃない。どうせ高額の報奨金を独り占めしようって魂胆でしょう?」
「で、ですが……」
もちろん助けることは簡単に、片手間にできる。でも100匹近い蛇をすぐ処理するのはLvを隠しているわたくしたちにとって少しリスキーなのよ。
「そ、そうですよね……申し訳ありません」
「・・・」
柚子がしょんぼりとして狩りに戻る。ああ!もう! わかったわよ!
「はぁ。甘いわね、わたくしも。『ウィンド!』」
足元から強い風が吹き荒れる。相変わらず強めに撃とうとするとスカートがめくれるわね…!
「はぁ!!」
今にも蛇に襲われるかという少女の方向に向かって風を放つ。蛇たちは一斉に宙に浮いて遠くへ飛ばされていった。
「な、なんだ!?」
「すごい魔法が発動しなかったか?」
チッ……やっぱり少し騒ぎになってしまったわね。あらやだ「チッ」だなんて。はしたないわよ、わたくし。
「アリス様ぁ!」
柚子が満面の笑みを浮かべる。うっ……この顔に弱いのよね。
「勘違いしないことね。たまたま撃った方向にあの少女がいただけよ」
「満点のツンデレ……ありがとうございます」
何故か感謝されたのだけれど。どういうことなのかしら。
その後も蛇を狩り続け、【アイン】門内への被害は限りなく0に抑えることに成功した。
柚子は210匹、わたくしは230匹を討伐。合計で44万円を得ましたわ。
「やったーー!! この半分ショッピングしていいんですよね? 22万円分ですかぁ……何買おうかなぁ……」
夢が広がっているわね。まぁこの世界に来て数日経ちましたし、そろそろアメがあってもいいわよね。
「じゃあ明日はお買い物に行きましょうか。でも…今からはまだお仕事よ?【魔蛇】についてまた領主に聞きに行きますわ」
「はーい!」
ちなみに討伐数1位は領主のクズ息子で570匹だったそうよ。アレが上にいると思うとちょっと納得いきませんわね。
本日もう1話更新します!




