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107話 vs魔王ですわよ①

『柚子ちゃんが魔王だったか〜。いや一本取られたな〜』


 ミミちゃんがわたくし達の戦いが始まる前に茶化すように声をかけて来た。もしかしてこの子……


「ミミちゃん、まさか知っていたんじゃないでしょうね」


『……さぁねぇ。アマちゃんに聞いてみたら?』


 確かにそうね。アマちゃんは柚子についた神様。魔王と知ったのなら手を引くつもりよね。


「どうなの、アマちゃん。貴女はどうするつもり?」


『悪いけど、私はこの子について行くと決めたの。……すべてを知った上でね。その上でこの子がどんな選択をするか、見るつもりよ』


 柚子が私に切っ先を向けた[アマノムラクモ]からアマちゃんの声が響いた。そう……わかっていたのね、神様2人は。だから契約する時に「どちらかが死ぬ時、どちらが死ぬべきか」みたいね質問をしてきたのね。こうなることが、わかっていたから。


 実体があればぶん殴っていたところだけれど……我慢よ。今は柚子をどうにかすることだけを考えなさい。この神たちはどちらかが死ぬべきと考えているみたいだけれど、私はそんなこと認めないわ。


「柚子、私に切っ先を向ける意味、わかっているのかしら?」


「はい。でもこれは背信ではありません。むしろアリス様のことを思っての行動ですから」


「わたくしが政敵に負けないように、この異世界に留めておくことがわたくしのためということ?」


「はい。ずっと一緒にいましょうね、アリス様。私たちはもう……汚い男の、汚い大人の世界に戻る必要はないんです」


 なるほどなるほど……たしかにわたくしを思っての行動ということに間違いはないようね。あの転移システムなる機械をどう手に入れたのか、よくわからないこともあるけれどもうそんなことはいいわ。柚子にわからせてあげましょう。


「柚子、歯を食いしばりなさい。『ライトニング』」


「甘いですね。『紫電:一文字斬り』」


 くっ……流石にレベル100な柚子だけはあるわね。『ライトニング』をたった一振りで消されてしまったわ。


「『サイクロン』」


「……アリス様、その程度の魔法で私をどうにかできると本気でお考えですか? ……『紫電:刺突』」


 風の渦を切り裂いて、柚子がわたくしの方へと突っ込んでくる。簡単に勝てる相手じゃないのはわかっている。でもどうしても……柚子に向かって本気の魔法を撃つことはできない。


「はあっ!」


「くっ!」


 柚子は刀を振ってわたくしを傷つけようとしてくる。その柚子の目があまりに冷たくて、わたくしは泣きそうになった。ダメよアリス。こんなところで泣いてしまってはそれこそ主人として失格だわ。


「アリス様がわかってくれないのであれば結構です。……なら作戦を変えるだけ。アリス様の手足を切り落として……私の側に置いてあげますね。ご飯も作って食べさせてあげます。横にいてゆっくり甘やかせて寝付かせます。アリス様はただ生きていてくださるだけでいいんですよ」


 手足のなくなったわたくしを飼って満足なのかしら。その辺の価値観のすり合わせは今後の課題ね。


「はあっ! やあっ!」


 柚子の攻撃にわたくしは避けるだけ。アマちゃんの力も加わっているからか刀の通り道が熱い。


「ぐぅっ……!」


 熱気に耐えながらどうすればいいのかを必死になって考える。よくよく思い返してみたらわたくし、柚子のことになるとあんまり冷静な判断を下せないことが多かったわね。


 柚子の刀を避けていると木の根っこに足を引っ掛けた。


「うあっ!?」


 盛大に尻餅をつき、鼻先に刀の切っ先が向けられる。万事休すか。


「柚子……本気なのね」


「はい。今からアリス様の右腕を……切り落とします」


 ヒュッ! と音を立てて柚子が刀を振り上げた。あれが下された瞬間、わたくしの右腕は胴と切り離される。それだけは防がなければならない。でもどうやって? こんな状況、どう考えたってピンチだわ。


「さようなら、アリス様の右腕。願わくばその腕に……抱かれたかったです」


 刀が振り下ろされる。その動きは妙にスローモーションに見えた。わたくしの細胞が諦めるなと轟音を鳴らしている。ならそれに応えるしかないわね。


「『サイクロン』」


 手からではなく、足から魔法を発動する。そんなことこんな土壇場でできるか不安だったけど……やっぱりわたくし、天才でしたわね。

 風をブーストにして飛び込み、柚子に頭突きするような形になる。


「うっ!」


 当然ここまでされたら柚子は刀を振り下ろしきるわけにはいかない。この子はわたくしを殺したいわけではないもの。


「柚子……」


 きっと今わたくしは悲しい顔をしているのでしょうね。それこそ国民に見せられないほど、悲しい顔を。


「貴女とこんなことになるだなんて思ってもいなかった。ずっと横にいてくれるものだと思っていた。その考えは甘く、無神経で、傲慢なものだったのかもしれないわね」


 その考えを改め、前を向く。こうなったらわたくしの信念で柚子をねじ伏せるしかないようね。

魔王戦を今日すべて更新します!

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