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106話 真実ですわよ

「はぁ、はぁ……どういうこと?」


【魔弾】たちの先に魔王がいる。そう思ってわたくし達は必死になって走ってきた。でもたどり着いたのは断崖絶壁。目の前には海のみが広がっている。ここが大陸の最北端。魔王がいるとしたらここだと思っていたのに……ここには小動物もいない。


 わたくし達が出発して2時間は経った。もうエデンさん・ルカさん、ユリアン・ロマン・ラファエルさんの戦いは終わっているはず。まさか彼女たちが負けた? いや、そうとは考えにくい。わたくしの見立てでは十分に勝てる戦力が集まっていた。ボロボロかもしれないけれど負けることはありえないはず。


 なのになぜ、ここまでに何もなかった? 魔王という存在が見当たらない? 考えても考えてもわからない。


「柚子、いったん引き返しましょう?」


 柚子にそう提案するけれど、柚子からの返答はない。……どうしたのかしら。


「柚子?」


「……アリス様、このまま私を抱えて北に飛んでくださいませんか?」


 やっと口を開いたと思ったら予想外なことを口にした。


「北に? 海しか広がっていないけれど……」


 でも柚子の異世界での直感って案外当たっていたりするのよね。なら柚子の言う通りに飛んでみましょうか。柚子の後ろに回り込んで抱え、飛翔!


 どんどん北へと進んでいく。景色は一面の海から変わることはない。でもわたくしは飛ぶ。柚子を信じて飛び続けるわ!


 飛翔してからおよそ1時間。今までにないほどの時間を飛んでいるから流石にちょっと疲れてきたわね。


「……ん? アレはなにかしら」


 海だけだった景色の中に何かが見えてきた。離れているから点でしかないけど……近づいてみたらわかるのかしら。


「…………なっ!?」


 信じられないものを見た。これは……わたくし達の住んでいた島、【アトロン島】じゃない!? なぜ北へまっすぐ飛んで南端にあるはずの【アトロン島】に……この星を一周してきたということ?


 それにしても……いやに無口ね、柚子は。緊張しているから? それだけかしら……。


 とりあえず【アトロン島】に着地する。わたくし達が生活していたところとは真反対に着陸するのは初めてね。そこには……異様としか言えない景色が広がっていた。

 この異世界に似つかわしくないスーパーコンピューターのような装置が木々に覆われ隠されている。裏側から見たら絶対に気がつかないわよね、これ。


「ねぇ柚子、何なのこれは」


「……」


 柚子は一言も口にしようとしない。何か……何か様子おかしい。柚子が一歩ずつ前に進み、スーパーコンピューターに触れようとする。


「ま、待ちなさい! そういうのは慎重に!」


「アリス様、お見事です」


「……へ?」


 柚子がスーパーコンピューターのスイッチを押して、そう呟いた。


「この装置は『転移システム』。指定した人間を細かく設定してこの世界へ送り込む装置です。アリス様と私をこの世界に召喚した装置ということですね」


 ペラペラと解説を始める柚子。わたくしの鼓動はその間にどんどんと早くなっていく。


「私の記憶をこの装置の前に来るまで消す設定でしたか。なるほどなるほど、ボロが出ないように。私にしては考えましたね」


「……なにを言っているのかしら?」


「ふふ、さっき思い出しましたよ。この世界へアリス様を連れてきたのは……私です」


 ……なるほどね、さっきから柚子の様子がおかしかったから覚悟を決めていたけれどやっぱり衝撃は大きいわね。


「なぜそんなことをしたか、聞いてもいいかしら?」


「アリス様……地球には政敵が多く、アリス様を脅かす存在だっています。アリス様のことを馬鹿にする人だっている。そんな地球にいる意味……ないですよね?」


 柚子がそんな問いかけをしてくる。つまり、あくまでわたくしのためにやったということね。


「今私はスイッチを押しました。この世界全員の記憶をリセットしてもう一度0から始まるスイッチです。失った魔王軍幹部は復活しませんが、また新しい幹部を探すとしましょう」


「……【魔弾】を王位から降ろしたのは貴女ね、柚子」


「はい。それも思い出しましたよ。この島は元は魔王の島。この島に生息する虫とかを食べていたからアリス様は急激にレベルが上昇した。ということです」


 わたくしが5ヶ月ほど追っていた魔王は……柚子だったのね。この世界で隣にいた柚子が虚構のものであったわけではない。その記憶を失ってわたくしの隣にいたのだから、あれは紛れもなく柚子の本性。そして、今目の前にいる柚子も、それはそれで本当の柚子。3年前の記憶を取り戻した柚子……ということね。いったいこの島に来ていつからあの柚子になったのかは知らないけれど。


「あと1時間後には記憶がリセットされます。この島にいる私たちはまた0からスタートするんですよ、アリス様。地球になんか帰らせません。この異世界でずっと最高の存在であり続けましょう?」


「……悪いけど柚子、その提案には乗れないわね。わたくしには日本をより良い方へと導く責務がある。それから逃げるわけにはいかないわ。だから……帰してもらうわよ、柚子」


「なら……戦うしかないようですね。『レベルジャミング:開』」


 柚子の闘気が増していく。


「≪スキャン≫」


≪魔王:柚子Lv100≫


 やっぱりレベル100になっていたのね。レベルすら偽っていたということか……いや、さっきまでの柚子は記憶を持っていない柚子だものね、偽るという言葉はおかしいですわ。


「いいでしょう。道を誤った使用人を正すのも主人の義務。柚子、目を覚まさせてやりますわよ!」


 最後の戦いが始まる。わたくしが……最後の戦いにしてやりますわ!

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