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105話 vs魔弾です②

本日3話目の更新です

「な、なぜ……」


 驚愕の声をもらすのはルカ。私も絶対に今の魔法で【魔弾】は倒せたのだと思っていた。それなのに先ほどまでとまったく変わらぬ様子で私たちの前に立ち塞がる【魔弾】。


「見事な魔法を隠していたものだ。……だが、残念だったな」


 ルカの『アブソリュート・ゼロ』に素直に賛辞を述べる【魔弾】。そのわりには凍傷ひとつ見当たらない。皮肉を込めているのでしょうね。


 もうルカは戦える力を残していない。これからは私だけで【魔弾】と戦わないといけないとなると……なんとも辛いものですね。


「『魔弾』」


「くっ!」


 唐突に発射された弾丸を避ける。そうだ……隙を見せていたら7発目に近づいてしまう。それだけは絶対に避けなければならないのですよね。


 [セントエスパーダ]を強く握り、【魔弾】に切っ先を向ける。この神器の能力を使えば……まだ勝ち筋はある。


 どんな状況でも希望を捨てたらそれで終わり。私はまだ……諦めません!


「……一人で俺と戦うか。それもいい」


【魔弾】は薄く笑みを浮かべていた。絶対に負けということを想定していないのでしょうね。ルカのあの魔法すら生存してしまったのですから。


「いきますよ[セントエスパーダ]。本気100%です」


「来るがいい。貴様の力、ひれ伏しながら完勝してやろう」


 [セントエスパーダ]にはいくつかの能力が隠されている。ただこの神様は私では制御できないほどのわがまま姫。能力を出そうとしてもどの能力が出てくるかはまったくわからないという厄介なものを持っている。今は賭けにでるしかないですね。


「輝きましょう。[セントエスパーダ]」


 キーワードと共に[セントエスパーダ]を呼び起こす。さぁ、どんな能力が出現するか……


 [セントエスパーダ]は私の呼びかけに応えるように輝きだした。これは……[セントエスパーダ]そのものを強化する能力が選ばれましたか。今の状況だと悪くはないですね。

 消費魔力は大きいですが……今の状況ならいけるかもしれません。


「滅却しなさい。『ジュエル・レイ・イレイサー』」


 小さな宝石が輝き、滅却の光を生み出そうとする。


「『魔弾』」


 しかしその宝石を【魔弾】は確実に撃ち落としてきた。まだ光を放つ前だったから消費魔力は少なく済みましたが……隙がないですね。それに4発目を撃たせてしまいました。


 結果で言えば失敗に終わりましたか。やはり【魔弾】に一人で挑むというのは無茶ですね。ルカの『アブソリュート・ゼロ』すら耐えるあいつに勝つ魔法……私のあの魔法しかありませんが……リスクが大きすぎますね。


「『魔弾』」


 しまった! 考え込んでいるうちに5発目を!


「『ジュエルシールド』」


 宝石の壁で弾丸を防ぐ。あと2発……それで私の戦いは終わる。

 今までたくさんの敵と戦ってきましたがここまで物事を考えて戦わないといけない相手は初めてです。【魔龍】は純粋に強いなという印象でしたがこの【魔弾】という男は強いとはまた違った存在。何というか、特殊なんです。間違いなく最強なのでしょうけど……なんか違うというか。よくわかりませんね。


 間違い無いのはこの男が厄介な存在であること。【魔龍】のように真っ直ぐな戦いが繰り広げられるのではなくねじ曲がった戦いというのが近いでしょうか。


「『魔弾』」


 6発目。これは何となく察知できていたから避けられます。


「……どういうことだ?」


「何がです?」


【魔弾】が訝しむように私に尋ねてくる。


「なぜか途中から俺の『魔弾』を止めようという気を感じない。何が狙いだ」


「さぁ? 諦めただけかもしれませんよ」


「そんな女では無いのはわかっている。あの金髪の女と同じだ。貴様はどこか不気味すぎる」


 ……女性に対してずいぶんと失礼なことをおっしゃる方ですね。まぁ私が得体の知れない存在だというのは否定しませんけど。


「……撃たないのですか? 7発目を」


「さぁな。撃つも撃たぬも俺次第だ」


 そこからしばらく戦場は膠着状態に。私としてはもう勝つにはあの魔法しかない。【魔弾】としては7発目で勝てるとは言え、警戒を解けるわけではない。


「……『ジュエルバレット』」


 ダメ元で宝石の弾丸を放つ。当然これは【魔弾】に当たることなく通り抜けた。


「……終わりにするか。お前が何を考えているか、見てみたくなったぞ」


「それはそれは。買いかぶりかもしれませんね」


「……『魔弾』」

 

 7発目を撃った魔弾。その弾丸はすでに私の胸の直前に迫っていた。私の肉にめり込み、赤い血が吹き出る。心臓に直撃した弾丸は私を殺した。


「ふん。買いかぶりだったか。つまらん」


「そう……でしょうか?」


「貴様……なぜ生きている」


 心臓を貫いた弾丸を受けてなお、私は立っている。さぁ、逆転の狼煙を上げましょう。


「『ブラッドクリスタル』」


 吹き出る血を凝固し、豊潤な魔力を持つ結晶とした。初めて使う魔法ですが……アイデアとして持っておいて良かったですね。


「止血を!」


「『ブラッドクリスタル:襲棘』」


 血の結晶が棘状になり、【魔弾】に向かって襲いかかった。高密度の私の魔力を練りこんだそれは【魔弾】のいかなる魔法でも防ぐことはできない。ルカの『アブソリュート・ゼロ』ほどの派手さはなくともそれ以上の攻撃力を誇る。


「この程度……! 避けれぬと思ったか! ……何!?」


「はぁ、はぁ……『アイシクル』」


 ルカが【魔弾】の右足を凍らせて回避を阻止する。最後の力を振り絞ってくれたのね。


「いっけぇ!!!」


「馬鹿な……俺が……魔王が!」


 その言葉を最後に、【魔弾】の声は聞こえてこなくなった。私の血に刺された【魔弾】はバラバラと崩れていく。


「エデン!」


 ルカが駆け寄ってくれる。けど私の心臓はもう使いものにならない。ここで……死ぬのでしょうね。


「死なせない! 『アイスハート』」


 ルカの魔法が私の中へ入っていく。冷たい……でも気持ちいいかも。


「心臓に代わるものを入れたからたぶん大丈夫だと思うけど……」


「……なんとか勝てましたね、私たち」


 どうやら生きて帰れそうです。ルカには助けられてばっかり。団長失格ですね。

 何はともあれあとは魔王のみ。任せましたよ……アリスさん、柚子さん。

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