104話 vs魔弾です①
風が吹く荒れる。まさしく荒野と言うべき場所に、私とルカは圧倒的強者を目の前にしていた。
「始めるか。戦いを」
その強者、【魔弾】は急かすように私たちに戦いを申し出る。きっとこの男は戦うことが好きなのでしょう。私たちの価値観では一生をかけても理解できないでしょうね。
「くれぐれも気をつけてねエデン。あいつは……【魔弾】は強いから」
言われなくてもわかる。この男は今まで戦ってきた中で一番強かった。レベルは驚異の88。アリスさん以外の人類では到達できないであろうその領域に、この男は入り込んでいる。
「もちろん。でも……ルカとならなんとかなるとも思っているけどね」
ルカも私も、この世界ではトップクラスの強者である。2人がかりなら……なんとか勝てる可能性があるかもしれない。もちろんただの希望ですけど。
「……『魔弾』」
私たちの話を遮るように弾丸を放出してきた【魔弾】。レベルにしてはさほど威力は高くない。私たちでも十分に対応できるからこそその意味を深く考える必要がある。アリスさんから聞いた話によると7発目はどうやら必中の弾丸になるそうで。となれば7発目を撃たせないことが勝利への鍵となりそうですね。
「『アイスシールド!』」
あの弾丸ならルカの魔法で十分対処できる。問題は7発目と、未だ見ぬ【魔弾】の他の能力。この警戒をしないことに勝ちはないですね。
黒い肌と白い髪を携えた【魔弾】は再び銃口を私たちに向ける。早めに7発目を撃って決める気ですね。
「やらせません。『ジュエルソード』」
宝石でできた剣を【魔弾】に向けて発射する。無論これだけで決まるとは思っていない。サポート次第です、ルカ。
「『アイシクル』」
意図を汲み取ってくれたルカが【魔弾】の後方から氷が迫ってくるような形の魔法を発動する。これが私たち【白百合騎士団】の団長と副団長の連携です!
「くだらん。『クーノ』」
【魔弾】がボソッと呟くと荒野であるはずのここにどんどん木々が生い茂っていく。その速度は異次元。生命すら操りますか!
あっという間に森林を作った【魔弾】によって剣も氷も受け止められた。この森のどこから【魔弾】が出てくるかわからない恐怖にかられる。落ち着きましょう。私は1人じゃないもの。
「『カスパール』」
キュイン! と金属音が響いた。それと同時に威力の高い弾丸が森の奥から飛んできた。
「『ジュエルシールド』」
とっさの判断で防ぐことに成功するも未だ【魔弾】の姿は見えない。こちらの位置はおそらく彼にバレている。彼の作り出した森の中にいるのが影響しているのでしょうね。
「ルカ、このままでは7発目まで撃たれてしまうわ」
「それなら多少無茶をすべきでしょう? 少し守ってくれる?」
私はルカの提案に頷いて応える。どこから【魔弾】が攻めてくるかはわからない。ただ7発目を撃つだけなら6発を適当に撃って早急に7発目を用意するのが効果的と思うのにそれをしてこない。ということは7発目を撃つには何か条件がある? それを探ること……は今のところ難しいでしょうね。
「『魔弾』」
「くっ、[セントエスパーダ]」
聖なる神器を手に取る。これなら!
「はぁっ!」
弾丸を剣で斬る。奇想天外な発想でしたが何とかうまくいきましたね。
「……ルカ?」
ルカを見ると青いオーラが体から漏れ出ていた。かなりの魔力を使用するみたいね。【魔女】としてここは譲れないということでしょうか。
「エデン、倒れたらよろしくね」
「もちろん。抱きかかえてあげます」
そう言うルカの顔は頼もしかった。何をしてくれるのか、私ですらワクワクする。レベル77のルカの本気の魔法、それが見れるのですから。
「『アブソリュート・ゼロ』」
小さく呟くルカ。その瞬間、一気に冷気がルカを中心に爆発的に広がっていった。これは私も巻き込まれますね。
「『ジュエルシェル』」
宝石で作られた貝殻の中へ避難する。私最強の防御魔法ですが……耐えられるでしょうか。すでに外は白色に染まっている。ついさっきまで森だったものは凍りつき、ひび割れ、崩壊していた。荒野すら残らず、あるのはただの「白」のみ。まるで宇宙が始まる前……「無」を見ているようね。
私の『ジュエルシェル』も限界が来ていた。森すら凍らせて崩壊させる魔法を受けてなお無事なのはすごいことですけど……そろそろ終わってくれないとまずいわ……。
と思っていたところで幸運にもルカの魔法が終了した。
「ふぅ、危なかったですね」
危うく仲間の……いや、恋人の魔法で凍死するところでした。【白百合騎士団】の団長ともあろう者が凍死で死ぬなんて許されませんからね。
「ルカ、よくやりましたね」
「無」になった世界でぐったりと座っているルカ。これほどまでの魔法を使ったのだから当然魔力は空になりますよね。
「疲れたけど……これで【魔弾】を倒せるならお釣りがくるくらいでしょう? エデン」
「もちろん」
誰一人として欠けることなく【魔弾】を倒せたのは大きい。最悪私はここで相打ちになるのも覚悟していましたし。
「……誰が死んだと?」
ゾクッと身体中が痺れた。この低音は……まさか……
「……【魔弾】」
なぜ今の魔法を受けて死なないの……? これはまずいですね。希望から絶望になるとは、流れが最悪です。