9話 vs大蛇ですわよ
「なにぃ!?」
大蛇が絶叫する。ビル一個に相当する大きさ故に叫ぶととんでもなくうるさいわね……。
「そんなに自分の魔法が破られたのが意外かしら。随分と自信家ですわね」
「ほざけ! 『ポイズン』」
ポイズン……毒ね!
「柚子! 捕まって!」
「は、はい!」
柚子の手を掴んで飛翔! 毒の球を吐き出したのか洞窟の地面が紫色に染まった。
「『飛行』だと……小娘! 貴様何者だ!」
「ふん。蛇に名乗る日がくるとは思いませんでしたわね。わたくしは御陵院有栖。いずれ日本を支配する悪女よ。覚えていなさい」
「なにを訳の分からぬことを……『八岐の炎!!』」
「なっ!?」
大蛇の口から出てきたのは……8つの巨大な炎。それもどんどん肥大化している。冗談じゃないわね……あれらすべてを同時に放つ気……?
「柚子。いくつ任せられるかしら」
「私だと……2つが限界です」
「そう。なら2つは任せたわよ」
「は、はい!」
わたくしが6つ……ギリギリね……。
「ゆくぞ小娘! 燃え尽きろ!!!」
8つの巨大な炎が凄まじいスピードで襲いかかってくる。でも……
「『紫電:孤月切り!』」
柚子は宣言通り2つを撃破。従者がこんなに頑張ったんだもの。わたくしもやりますわよ! 先ほどの森で使った魔法を思い出して……
「行くわよ!『ライトニング!』」
指輪を使った雷ではなく、自前の雷。前回と違うのは雷を分裂させるイメージを混ぜたこと。これなら……
「はぁっ!!」
イメージ通り、雷は6つに分裂する。力をほとんど抑えず全力に近い状態で撃った雷は無駄なく『八岐の炎』を打ち砕いた。
「そういえばわたくし天才でしたわね」
「バカな……ありえん……」
あら? ついに放心してしまったようね。
「感謝しますわ。この世界で恐れられている貴方に勝てると知った今なら今後の自分の身の振り方も決めやすくなりましたもの。それではトドメですわよ?」
「貴様! 我を殺す気か!」
「えぇ。当然じゃないの。そういうクエストだもの」
「無礼千万! 我を殺して……」
「ごちゃごちゃと煩いわね……『絢爛の炎!』」
「【魔蛇】様が黙っておらぬぞ! うぉおおおおっ!」
大蛇が炎に包まれる。かなり力を落としたのに炎は余裕で大蛇を丸々飲み込んだ。恐ろしい魔法だわ…。
「やりましたね! アリス様!」
「えぇ。帰りましょうか。あら? そういえばどうやって大蛇を倒す証明をするのでしょう……? もう黒焦げになってしまったけれど……」
「冒険者カードに記載されてるんじゃないですか?」
「冒険者カードに?」
そういえば全然見ていなかったわね。どれどれ……
「あら本当ね。≪討伐モンスター≫って欄に記載されているわ」
ついでに確認すると『ライトニングLv2』『ダークネスLv2』も魔法・スキル欄に追加されている。すべて自動で済むなんて便利ですわね。
洞窟を出ると外はもう真っ暗。冒険者組合にそのまま行くのはやめて島に帰ることにしましょう。お腹も空きましたしね。
「ふぅ。今日は食料を調達する時間なんてないわね。何を食べましょうか?」
「保存食の中だと……干し肉たべちゃいます?」
「そうね……疲れた時にはお肉が食べたくなるわね」
さらっと火を出して干し肉を炙る。あぁ……いい香りが……!
「それにしても大蛇強かったですねー!」
「そうね……別に全力で戦えるのなら簡単な相手でしたけど洞窟内というのがいやらしかったですわ」
「これで500万円ですかぁ……高いような安いような……」
「わたくしたちは倒せましたけど本来なら簡単に殺されてしまう相手なのだならもう少し金額を上げていただいてもよろしいとは思ってしまいますわね。ほら、食べごろですわよ?」
「やったー! お肉お肉〜♪」
満面の笑みで食べる柚子を見ているとこっちまで幸せになってくるわね。
「それにしても500万円ですかぁ……何に使います? 宿とか借りません?」
「なぜ? こんなにも快適な島があるじゃない」
「ええー! まだこの島に住むんですか?」
まだも何も……異世界にいる間はずっとここに住む気だったのだけれど柚子はそうでもないのね……ちょっとショックだわ。
「まぁそれもいいですね! アリス様と二人で過ごすのも楽しいですし」
あぁ……好き……
「さ、寝ましょうか。疲れたでしょう?」
「はい! おやすみなさい、アリス様」
「えぇ。良い夜を、柚子」
無人島に作った干し草のベッドで柚子と隣に並んで寝るから…今日みたいに好きを普段より強く意識する日は悶々としますわね……。
「おはようございまーす!」
「んん……おはよう柚子」
いいお天気ね。絶好のクエストクリア報告日和だわ。
「朝ごはんできてますよ!」
「ありがとう……美味しそうね」
あぁ……これですわこれ。柚子との新婚生活もこんな感じかしらね……。
「アリス様? 聞いてます?」
「あっ、えっと……何だったかしら?」
「もう! 昨日結局500万円の使い道決めなかったじゃないですか!」
「そうでしたわね。でも別に無理に決める必要はないんじゃなくて? いずれ必要になった時のために取っておくのもいいと思うわよ?」
「そうですけど……もう! 大金持ちの令嬢とは思えないほど節約家ですね……」
当然ですわ。浪費に勤しむ支配者など愚の骨頂よ?
朝ごはんを食べ終わって再び【アイン】の街へ。組合へと近づいていくたびに荒っぽい男や朝だというのに酔っ払った男が増えてきて不快ですわね……。よく大蛇ほどの強さのモンスターが現れる森の隣街でこんなに悠長でいられるわね……むしろ感心しますわ。
組合に入るとやはり視線を強く浴びますわね。わたくしはもちろん柚子も相当の美貌の持ち主ですし、出ているところも出ているから当然ね。手を出してきたらブチのめしますけど。
「ごきげんよう。昨日ぶりね」
「あ! アリス様!柚子様! よかった……クエストは棄権されたんですね? 私、昨日引き止めなかったことをずっと後悔してて……」
……あら? 組合のお姉さん的にはわたくしたちはクエストに行かずに引き返したことになっているようね……。まぁ12Lvと9Lvで大蛇討伐に行ったと思っているのでしょうから無理もありませんわね。
「ご心配ありがとう。でもわたくしたち、大蛇を倒したわよ?」
「え? そ、そんなまさかぁ……ご冗談ですよね?」
「ほら、これよ」
冒険者カードを証拠として提出する。
「ほ、本当だ……≪討伐モンスター≫欄に大蛇って……」
「どう? 信じてもらえるかしら」
「そ、それはもう……! で、でもどうやって討伐されたんですか?」
「それは……秘密ですわ♡」
説明も面倒ですし……まぁ後で偽装工作しておけばいいわね。
「面倒ごとは嫌いなの。わたくしたちが大蛇を倒したことは伏せておいてもらえるかしら?」
「は、はい。かしこまりました! では報酬金500万円です」
ズンと札束が大量に置かれる。これまた雑ですわね……ただの紙に「10000」と書かれただけですわ……。
「うはぁ……♡!」
「柚子……品が無くてよ?」
「も、申し訳ありません! アリス様!」
「よろしければ冒険者組合の金庫でお預かりいたしましょうか? 初回と1年に1回1万円ご請求させていただきますが……」
とりあえず大金を持って酒場にいるのも怖いからそれでいいかもしれないわね。
「えぇ。じゃあ400万円は預かってもらおうかしら」
残った100万円を柚子に預ける。まぁこの子に持たせておけば盗まれる心配はないわね。
受付の女性に軽くあいさつをして組合を出る。
「さて……柚子はお買い物がしたいようだけど我慢よ?」
「ええー! アリス様の節約家!」
……つまりケチと言いたいのね……。
「今日は先にやらなきゃいけないことがあるでしょう?」
「やらなきゃいけないこと? なんですか?」
「それは当然……この街の領主に顔を見せないといけませんわよね?」
「なるほど! すっかり忘れてました!」
「よろしい。行くわよ!」
「はい!」




