お題 空 ペット 水たまり 1
「水たまりに映った世界をメインで撮る写真の技術はリフレクションっていうんだって」
彼女が買ってもらったばかりのミラーレスの一眼レフをいじりながら話す。
僕らは高校の文化祭で展示するための写真を撮りに、町中を散策している。部費は無いに等しく、
遠征など当たり前にできないのでもっぱら町中の写真撮影だ。
今日は4日間続いた雨が午前中で上がったので、午後のこの放課後からカメラを持って散策という
わけだ。僕は黒い大きなボディーのデジタル一眼レフカメラ。父のおさがりで、ズンと肩に重たくの
しかかるが、大は小を兼ねるというのがよくわかるくらい一枚一枚はっきりととらえる事が出来る。
とはいっても、僕はまだお情けでもらった自分のペットの猫を写した佳作程度の写真しかとったこと
はないのだけれど。
シルバーと革のブラウンが目立つ彼女の手にちょうどよさそうな小ぶりなカメラを振り回しなが
ら、彼女はいろいろな角度から試行錯誤しながら、長雨で満たされた道路にできた自然の鏡に映る夕
方の世界を映す。
「写真を撮ってる人を写真にとると面白いよね」
つい、僕は言ってしまった。
だって、彼女はまるでイモリやヤモリやトカゲの様に地面すれすれになりながら、リフレクション
を楽しむように写真を撮っていたから。
「もう!せっかくいい写真が撮れそうだったのに、恥ずかしくなってきて集中出来ないじゃん」
彼女は恥ずかしそうに、頬を夕焼け空と同じ色に染めながら振り向く。
僕は息をのんだ。
振り返り躍動する彼女がとても、とてもきれいだった。
カシャカシャ
カメラの音が鳴る。
文化祭最終日投票により写真が学校のホームページと地域の新聞に載ることが決まった。
タイトルは「夕焼け色の君」僕が撮った写真だ。
夕焼け色に染まった空と少女がノスタルジックな初恋を彷彿とさせると高評価をもらった。とて
も、自分の心を見透かされたような気持で、恥ずかしく思いながらも、自分の中で一番良い評価をも
らえてとてもうれしく思う。
そして、今年はもう一枚優秀賞が選ばれた。
タイトルは「初恋に落ちた音」
静止画ながらまるで音が聞こえてきそうだと高評価があるらしい。被写体は僕。
そう、あの時振り向いた後、彼女が僕を写したのだ。そして、僕の心の中まで写し取ってしまった
らしい。レンズ越しにリフレクションした君を独り占めしたい僕は、今日、君に告白することに決め
た。