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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第92話

  病室に移された匠は、麻酔が完全に切れていないせいでぐっすりと眠っている。そのかたわらでその手をしっかり握り締めた沙織の姿と、息子が不慮の事故に遭いどうしていいのかわからずウロウロしている明子がいた。看護師が点滴と何かのチューブをてきぱきとセットし、先生が間もなくみえますからと言って出て行った。匠の左腕は上部から手首まで包帯で巻かれ、とても痛々しく見えた。しかしその身体全体からは相変わらず独特のオーラを放っている。その中で誰も口を開くことなく医師が来るのを待った。

  しばらくしてドアがノックされ医師と看護師が入ってきた。沢木には見覚えのある顔だったが、他の面々は初対面のため改めて沢木が紹介した。医師も入った途端、新顔が何人もいたため一歩後ずさったが、沢木から事情を説明されると「ああ、そうだったんですか。」とだけ言った。それから術後の状態をチェックし看護師に簡単な指示を出した。その後明日また来ますからと一同に軽く会釈して出て行った。指示を受けた看護師は体温、血圧、脈を測り、チューブの先につけられたパックを見て(それは尿量を計るパックだったらしい)何かありましたら枕元のボタンを押してくださいと告げ、穏やかな笑顔をたたえ戻っていった。

  4人は銘々ソファに腰を落ち着け一様に安堵の声を漏らした。時計を見ると既に午前0時を回っていた。皆疲れた顔をしていた。タフな秀一でさえぐったりしている。ただ1人、沙織だけは匠の傍から離れず同じ姿勢を保っている。全員着替えるのもそこそこに会場を後にしてきたため、男たちはフォーマルのままだ。女性陣はドレスを脱いで普段着になっている。沢木は榊原と2人、部屋の隅に椅子をずらしヒソヒソと話し始めた。パーティの経過を聞くためらしい。時折目を見張ったりしながら熱心に榊原の話に聞き入っている。明子は沙織と反対側の椅子に腰掛けハラハラと涙するばかり。自然に正彦は秀一とペアを組む形になった。彼にしてみれば親会社の総帥である秀一など雲をつき抜け成層圏を突き破るような存在である。滅多なことでは口をきくことすらできないのだ。おまけにかなり疲れているように見える今、下手に話しかけようものならどんな仕打ちをされるかわからない。それを踏まえ、恐る恐る声をかけてみた。

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