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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第8話

  奥まった秀一の部屋から玄関まで歩いてくる間、榊原に説明された内容は殆どが得宗グループの社内秘についてだった。初め、匠は榊原に恨み言を言ったが全く効き目がなく、そのうち匠の方が諦めざるを得なくなった。このくらいでなければ到底、得宗寺家の執事なんぞは勤まるものではないのだろう。ふと彼はいったいいくつになったのだろうと匠は思った。

「榊原。」

「はい。何でございましょう。」

「お前、いくつになった。」

突然話題を変えられても顔色ひとつ変えない。

「いくつだと、お思いですか?」

「お前と沙織が家に来てから12年経つが、オレには全く見当がつかない。お前は全然変わらないからな。」

「いいえ。私もそれだけ年をとっております。今年で48になりました。」

「48?まだそんなに若かったのか?オレは60くらいだと思ってた。」

「それは失礼というものですよ。人間外見だけで判断してはいけません。お父様からもそう教えられてでしょう。」

確かに、役目柄、榊原は実年齢よりはるかに老けて見えた。匠のストレートな物言いには慣れているのか、主従関係というよりは友達同士の会話のようだ。

「そうだった。悪かった。謝るよ。・・・ところでもう1つ聞いていいか。」

「なんなりと。」

「独身か。」

「また、これは異なことを聞きますね。・・・まァ、いいでしょう。他ならぬ匠さんのご質問です。答えないわけにはいきません。―――― このような仕事をしておりますと、家庭というものは煩わしいものです。・・お察しの通り、私は独身です。」

「淋しくはないのか?」

「考えた事もございません。このお屋敷を仕切ることは私にとって無上の喜びです。おまけにあなたを得宗寺家の跡取りに育てるという最高の使命を帯びましたからね。そんなことを口にする暇さえ無くなるというものですよ。」

「お前、オレはこの家に相応しいと思うか?」

「異論はありません。匠さんほど得宗寺家ならびに付随するグループ総帥の椅子に似つかわしい方はいらっしゃいません。」

「あの人といい、お前といい、おかしいぞ。高校生のオレに天文学的資産を誇る得宗グループを任せるだなんて。本気で考えているのか。」

「私を見くびらないで下さい。ある意味私は沙織様よりあなたを知っています。今まで数ある誘惑を一切退けてきたのはトップになるためには邪魔だと考えたからでしょう?しかし全く遊ばないわけではない。視野を広げるための遊びは無闇に年を重ねた男より知っている。私が一番あなたを推す理由は、あなたが沙織様ひと筋。というところです。もちろん沙織様もあなた以外眼中にありません。」

「そんなことわからないだろう。他人の心などわかる人間なんているわけがない。」

「おっしゃるとおりです。しかし心というものは本人も気付かないうちに態度に表れるものです。私はお2人を幼少の頃から見てきました。確かにあなたは沙織様に対し表向きは非情なほど冷たい。けれど私には愛情表現の裏返しにしか見えないのです。・・・図星のようですね。・・さぁ、今日はここまでにしましょう。なにしろあなたには時間がない。寝食を忘れてかからなければあの膨大な資料を読むことすらできないでしょうからね。」

榊原自ら車のドアを開け匠を促した。家は隣同士でも何しろ広大な敷地面積を持つ得宗寺家。まともに歩こうものなら30分以上かかってしまう。確かに今の匠にはそれさえも無駄にできない時間に思えた。

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