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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第67話

  昼。昼食はどうしようかと考えていると、来客があると同級生が教えてくれた。いったい誰だろう、と指定された場所に行くと、得宗寺家の料理人の1人が所在なげに立っていた。匠の姿を見つけると初めてホッとした笑顔になり、嬉々として頭を下げた。足元には何やら大きな包みがあった。

「どうしたんだ。何か用か。」

「はい。お嬢様から匠様の昼食のお世話をしてくれと言われてきたのですが、この学校、広くて道に迷ってしまって。ちょうど通りかかった生徒さんにお願いして匠様を呼んでいただいたのです。ご迷惑だった、でしたでしょうか。」

加賀美というその料理人はまだ20代半ばで、料理学校卒業後すぐ得宗寺家に入った。匠と年も近いこともあり、目にかけている使用人の1人だった。彼は暑くもないのにしきりに額の汗を拭っている。朱雀高校の規模の大きさに圧倒されたのだろう。

「そうか。悪いな。・・・今日のメニューは何だ。」

そう言って匠は近くのベンチに腰掛けた。加賀美は即席のテーブルを組み立て、その上で大きな包みを広げた。

「匠様がお疲れ、と伺いましたので、お好きなものを作りました。舞茸のおこわ、にらの卵とじ汁、ナスの浅漬け、白和え、若鶏の香草焼きでございます。デザートは巨峰と洋ナシのコンポート、お飲み物はいつもの得宗玉露をお持ちいたしました。」

得宗玉露とは、得宗寺家所有の茶畑から採れるほんの一握りの超極上茶葉である。これは世界の銘茶5選の1つであり、飲むことはおろか、一般民は見ることすらできない代物だ。それを匠は常用している。いわば匠のためだけに作られている茶葉といっても過言ではない。当主である秀一でさえなかなか飲むことができない。それだけをとってみても匠に対する得宗寺家の扱われ方の重さがわかる。

「そうか。うまそうだな。」

まともな食事をしたのがいつだったか忘れてしまった。匠は美味そうに並べられた料理を全て平らげ、ごはんは3杯もおかわりした。加賀美は匠の食欲に驚くと同時に、沙織以外の人間が作った食事を食べたのを見たことがなかった。それも全部である。絶句してしまった彼を見て、初めは不思議に思った匠も、ああ、そうか。と珍しく笑顔を見せた。

「うまかった。こんなに美味いと感じた料理はなかった。一流の料理人になれる。・・・いや、既に一流の腕前だな。  ところで、沙織の具合はどうだ。」

お茶を飲みながら気になっていたことを聞いた。

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