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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第66話

  3日ぶりに登校した匠は、何十人という在校生に取り囲まれた。みな口々に昨日の事件の真相を聞きたがった。新聞部の連中はここぞとばかりに匠の顔をアップで撮ろうと躍起になっている。あまりの騒々しさに神経を逆なでされ、匠はジロリと彼らをねめつけた。一瞬にして水を打ったように静まりかえる生徒達。匠の進路を妨げぬよう自然に道ができる。

  かろうじて1時限目に間に合ったものの、学校へ行く。ただそれだけのことが非常に難しいということを痛感した。クラスメイトは匠の性格をおおよそ把握しているので、他生徒のようなあからさまな態度は示さない。しかし物言いたげな目つきが癪に障った。

「何か言いたいならはっきり言え!」ついに声を荒げてしまった。

「いいの、か?」1人の生徒が口火を切った。

「ああ。そんな目で見られるくらいなら、はっきり言われた方が楽だ。」

その生徒は廊下にいた誰かを手招きした。すると3名の女性徒がビクビクしながら入ってきた。

「あ、ああの。 得宗寺さん。 きょう、けっせき ですか。」消えそうな声で1人が言った。

「なに。」

「あ、ごごめんな、さい!」

「謝らなくていい。オレの方こそ悪かった。 あいつは休みだ。それがどうかしたのか。」

「そう、ですか。わかりました。」

「わざわざそんなことを聞きに来たのか。」

「す、すみません!で、でも。何の連絡もないし、あたし、今日、当番なので、先生に報告しな、あ、 わ、わかりました。 ありがとうございましたッ!」

彼女たちはそれだけ確認すると足早に逃げて行った。当番だと言ったのは里見京子といって沙織とは仲の良い部類の生徒だった。

ところが、彼女たちがいなくなっても教室全体の重苦しい雰囲気は消えない。

「まだ何か言いたい奴がいるならはっきり言ったらどうだ。」匠の低い声が響く。

だが誰も口を開かない。そのうち遠巻きにしていた生徒が静かに授業の準備をし始めた。それが合図だったのか、始業のオルゴールが鳴った。すると誰ともなくホッとため息をついた。隣の席にいた上田がポンポンと匠の肩をたたいた。それで終わり、ということなのだろう。匠はつくづくクラスメイトのありがたさを感じた。野次馬根性で事件のことを聞きたがるだろうと、あえて自分から提起したにも関わらず、誰ひとりとしてそれを口にする者はいない。精神的に疲れていた匠にとって、教室が安らぎのひとつになった。


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