表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
36/132

第36話

  その頃、得宗寺家では主、秀一の突然の帰宅に蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。執事の榊原は慌てて出て行ったまま戻らないし、娘の沙織もまだ学校から帰っていない。何とかしようにも手立てが見つからないのだ。とりあえず、秘書の沢木に時間稼ぎをしてもらい、榊原を探すことにした。

  「大変です!だんな様が急にお帰りになられました!」

榊原が育成している次期執事候補の米田が受話器の向こうで慌てふためいている。

「なに!だんな様が!」

匠と一緒に沙織を救いに(おそらくそうだと榊原は確信していた)行く途中、車の中で突然携帯が鳴り、出てみると米田だった。ただならぬ様子に、匠が怪訝な目つきをした。

「だんな様がお帰りになったそうです。どういたしましょう?」

榊原の不安をヒシヒシと感じることができた。匠は少し考えてから運転手に得宗寺家に向かうよう命じた。

「匠さん!」

「大丈夫だ。まだ時間はある。秀一氏に相談してからにしよう。」


  「なんだか屋敷の中が騒がしいな。」

秀一は自分の帰宅が原因だということに全く気づかないらしい。沢木は笑いたくなるのをこらえ、ことさら事務的に答えた。

「会長が突然お戻りになられたからでございましょう。」

「私が?・・・榊原を呼びなさい。」秀一の目つきが変わった。

「あいにく、留守のようでございます。」即座に答える沢木。微塵も恐れを感じていないようだ。

「留守?執事が留守とはどういう事だ。」

「私にはわかりかねますが・・米田に聞いてはいかがでしょう。」

「では米田を呼べ。」

「かしこまりました。」

沢木が姿を消すと間もなく米田が恐る恐る入って来た。

「榊原はどこに行った。」

眼光鋭く問い詰められ、益々彼はちぢこまっている。

「は、はい。・・ああの、初めは何も仰らず出て行かれたのですが、だんな様のご帰宅を伝えようと電話いたしましたところ、匠様とご一緒ということがわかりました。すぐこちらにいらっしゃるそうでございます。はい。」

「なに?匠と一緒?わかった、下がってよい。」

待ってましたとばかりに米田は足早に逃げ去った。入れ替わりに沢木が戻って来た。

「会長はお嬢様よりも匠さんの方を大事にしていらっしゃるように見受けられますが、私の見当違いでしょうか。」

「ふん。おまえの悪いところは歯に絹を着せぬ物言いをするところだ。」

言葉とは逆に秀一の目にはいたずらっ子のような輝きが表れている。要するに怒っていないということだ。それを経験から会得している彼は素直に謝った。

「申し訳ございません。分もわきまえず余計なことを申しました。」

「心にもないことを言うな。 まぁいい。確かにおまえの言う通り、私は匠を気に入っている。どうしても私の跡を継がせたい。しかし・・」

「匠さんに断られてのですね?」

「またおまえの悪い癖がでた。なぜ私が言い終わらないうちに言ってしまうんだ。」

「そうでなければ得宗寺秀一氏の秘書など務まりません。」

「なに。 確かにおまえは一流の秘書だ。そのおまえから見て、匠は私の跡継ぎに相応しい男か。」

秀一の目からいたずらっ子の輝きが消え、得宗グループ総帥の目つきに変わった。少しの間、沢木は目を伏せたが、次に目を開いたときには何かを決意したような顔になっていた。

「正直に、申し上げても宜しいでしょうか。」

「かまわん。おまえの正直な意見を言ってくれ。」

「では申し上げます。今の匠さんに会長の跡を継げ、というのは無理でございます。高校生ということもありますが、力がまだ充分ではありません。ただ会長が直々に指導すれば4〜5年後には誰も文句のつけようのない後継者になるでしょう。もともと素質のある方ですから。」

「そう か。 ではおまえはどうだ。」

「私は二代続いて秘書ができれば本望でございます。私も会長や榊原さんに負けないくらい匠さんが好きですから。」

「ふん。おまえがそういう気持ちでいるなら改めてそうすることにしよう。」

「はい。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ