表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
31/132

第31話

  突然、物陰から沙織は呼び止められた。声のした方に目線をやると、生徒会長らしき人物が手招きしている。恐る恐る近づくと、やはりそれは会長だった。モジモジしていて先日の自信たっぷりの雰囲気がまるでない。別人のようだ。それでも会長には違いない。

「あの・・」

ちょうど良かった、と沙織は思った。あの時の返事をするべきなのに機会が見つからず返答できずにいたのだ。はっきり断らなくてはならない。手短に話をつけよう、と言おうとした時、会長の口から思わぬ言葉がでた。

「この間の件はなかったことにしてくれませんか。僕が思い上がっていたようです。・・じゃ、これで。」

そむけた横顔の頬が紫色になっているのがわかった。なぜそうなったのか知る由もない沙織だが、裏で匠が糸を引いている事など会長のプライドから鑑み、公表することなどもってのほかだろう。なんだかしらないが断る前にフラれてしまった。残念なようなホッとしたような複雑な印象だ。沙織は友人がよくやるように肩をすくめてみた。そうしてみると意外にいい気分になれた。(これはクセになりそうだわ。)浮かれ調子で校舎に戻ろうとすると、突然匠が現れた。ドキッとして立ち止まる沙織。

  「会長は何の用事だって?」

腕を組み、ジロリと沙織を見る。その姿が閻魔大王のようで何とも言えず恐ろしい。

「え、あ、あの・・この間の件はなかった事にして欲しいって。」

「そうか?」

「匠さん。知ってたの?会長のこと。」

「親切な友人を持ったおかげでな。残念だったな。おまえのこと大切にしてくれそうな男が現れたと思ったのに。」

憎まれ口をたたくわりには何故か嬉しそうに校舎へ向かう匠。

「匠さんたら!私にいじわるして楽しんでいるのね!」

真っ赤な顔で怒る沙織に、匠は歩きながら人差し指を立て、「正解!」と言った。その肩が震えている。笑っているのだ。それが一層沙織の怒りに拍車をかけた。しかし彼女の怒りなど匠には柳に風、または、暖簾に腕押しだ。

「知らない!」

すねる沙織にいつもならそのまま行ってしまう匠が笑いながら引き返してきた。不思議そうに見上げる沙織に、何を思ったのか匠はその頬にキスをした。おまけにゾクゾクする声で「愛してるよ。」とささやいた。あまりのことにショックを受ける沙織。その場にヘナヘナと座り込んでしまった。それを見た匠はまた笑いながら言った。「It's a joke!」と。その言葉は全く彼女の耳に入らなかった。言葉そのものよりも行動に驚いたのだ。今度は振り返ることなく匠は校舎に戻った。その光景を一部始終見ていた人物がいたのを2人は知るよしもなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ