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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
30/132

第30話

  その試合結果を友人から聞いた沙織は、昨日、何故匠が不機嫌だったのかを悟った。汚いやり方も許せないが、それを見破れなかった己を許せなかったに違いない。そう解釈した。

  「匠さん。もうすぐ期末試験ね。私、自信がないわ。」

不安げに肩を落とす沙織。周囲が昨日の一件を騒ぎ立て、うんざりしている匠にとってこういう時の沙織の存在は心底、癒された。

「・・・・スズナミサナエの正体がわかった。」

「え?」

話が別方向に向かい始めたのはいい傾向だ。匠の機嫌が上向きになってきた証拠だから。その機会を逃してはならない。

「ご主人て誰でしたの?」ぐっと身を乗り出す。これも作戦のひとつだ。

「誰だと思う。」

美味そうな(実際美味い)昼食用に沙織が用意したロースとビーフサンドをかじりながら逆に問いかける匠。

「ええと・・・コックの白井さん?  ちがう。・・じゃ、室田さん・・え、違うの?リネン室の柳さん。・・・えー・・っと。ボイラーの・・じゃ、運転手の水口さん・・じゃないの?・・じゃあ・・」

いちいち首を振りながら匠は沙織のカンの鈍さにあきれてしまった。

「全っ然違う!おまえ、ホントにわからないのか?オレをからかうのもいい加減にしろよ。」

「からかうなんて。そんなつもりないわ・・」

嬉々として名前を連ねていた気分が一気に下降してしまう。

「・・・ったく。よく考えてみろ。おまえが生まれた時お袋さんの傍にいたんだぞ。そんな女が一介の使用人の家族のわけがないだろう。かなり重要なポストにいた人物とみるべきだ。おまけに今、言った連中の年齢を考えてみろ。白井は60だ。室田も58、柳は65、水口に至っては28だろう。年相応の男を言ってみろ。」

「えーと・・サナエさんが40だから・・相応しい人というと・・榊原さんしかいないわ。でも、それだけはないと思うの。だって。」

反論しようとする沙織をジロリと見やる匠。

「なぜそう言い切れる。事実は事実だ。榊原が結婚していたらおかしいか。」

「で、でも。そんなこと、あり得ない・・・わ。」

「でも、はない。あるのはそういう事実だ。おまえに頼まず初めからオレが行けばこんなに時間を取らなかった。あいつと話していてふと気付いた。それを直接ぶつけたら見事的中した。というわけだ。何があったか知らないが、何年も隠し通してきた事に敬服するよ。まさかおまえの親父は知っているんだろうな。あの人までも騙してきたとなると由々しき問題だ。」

「まさか、そんな。お父様からそんな話、聞いたことがないわ。」眉をひそめながら反論する。

「親父とおまえが必要以外のことを話題にする方が珍事件だ。」

匠は冗談を言ったつもりだが、沙織には通じなかったようだ。元々沙織に対し、笑いかけたり、増してジョークを飛ばすことなどなかった匠だから、明らかにおかしな話をしたからといって素直に笑えるものではない。

「そ、そうね。お父様がいくら使用人だからといってプライベートを私に話すはずがないわね。」声こそ出さないが、沙織がう〜んと唸っているように見えた。

「午後の授業が始まる。よく考えてみるんだな。  先に行くぞ。」

やおら立ち上がる匠に慌ててその手元をみると、すでに彼の分のサンドイッチとコーヒーは空になっていた。急いで片付け、大またで歩いて行く匠の後ろ姿を小走りに追う。

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