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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第26話

  剣道大会の当日。匠はいつもと変わらぬ様子で自宅を出た。このところ練習不足のせいかどうも調子が出ない。増して神経を悩ます出来事が多すぎて練習に身が入らないのだ。オレは普通の高校生活をしたいんだ!そう叫びたくなるほどだ。しかし周囲がそれを許さない。それを痛感するたび、新たな血が沸きあがるのはもっと悔しい。沙織はあの日以来、逐一報告してきているが、内容にはほとんど変化はない。本当に細かくチェックしているのか疑わしいほどだ。


  準々決勝までは大将の出る幕はなかった。ところが準決勝戦で思わぬ伏兵が現れた。やはり私立の烏城高校。名前が表わすとおり、部員全員が黒づくめだ。部員ばかりではない。応援団全てが真っ黒だ。朱雀高校は清潔をモットーにしているため胴着は上下真っ白だ。見た目も正反対なら流儀も異なるらしい。正攻法で攻める朱雀の面々に対し、相手は反則ギリギリのところで攻めてくる。先鋒、次鋒が倒れ、中堅が倒されれば終了、というところで何とか持ちこたえ、とうとう大将である匠の出番が回ってきた。卑怯な技が大嫌いな匠ではあるが、相手の出方次第では同じ手を使おうと決めていた。相手も大将。どうでるか。

  始め!の声と共に、匠は基本どおり、正眼に構えた。相手も同じ構えを見せ、とまさにその時、一挙に打ってきた。あまり早さに匠は受けるのが精一杯。じりじりと後退していく。相手の眼光鋭く、真剣なら一刀両断に負けていたかもしれない。それでも匠の実力は並ではない。いったん、体制を立て直すと、大波が押し寄せるが如く攻めていく。これには大将といえどたまらない。気迫に押され、危うく面をとられそうになった。というのも場外に出てしまったおかげ、としかいいようがない。本来なら負けていたのだ。仕切りなおし後、2度同じ手は使わせまいと、匠は先手を取り、小手を狙った。それを相手は一瞬にかわし、その手で右の胴を狙いに来た。匠も巧い具合に切り抜ける。両者一歩も譲らず、制限時間が過ぎ、合図が鳴った。いったん、席に戻り延長戦の声を聞く。匠の呼吸は一寸も乱れていないが、相手は相当息が上がっているようだ。伯仲した試合の場合、それが命取りになるのは明白だ。そこが好機でもある。

  再び匠は敵と向かい合った。延長戦は先に一本取った方が勝利者となる。匠の心は凪のように静かだ。相手はじりじりと足を詰めてくる。足元を見ると匠を中心に時計回りに少しづつ回っている。敵に後ろを見せては負け。相手に合わせ匠も回る。半分近く回ったところで相手の足が止まった。その時、何かが光った。まぶしい!匠に一瞬の隙ができた。そこをすかさず敵が大上段に構え、竹刀を振り下ろした。

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