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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第2話

2人は沙織一家が匠の隣家に越してきた12年前からのつきあいだ。匠の父は周防建設という会社を経営していたが、それは得宗寺家の所有する得宗コーポレーションの傘下に入っていた。従って、明確にいえば、沙織は匠よりも上の立場だった。それにもかかわらず、彼は挨拶に来た得宗寺家の執事と彼について来た沙織を見て、『こいつ、オレにくれ。』と言ってのけた。それ以来沙織は匠の面倒を一切みるようになった。食事の世話、洗濯、掃除etc.全てにおいて匠は沙織にやらせ、第三者(家族も含め)が手を出そうとすると露骨に不快感をあらわにした。それ以後、両親は匠の世話を全くしなくなった。しかし5才の子供が料理をさせられるのだからその苦労は並大抵ではなかった。手にヤケドと切り傷は日常茶飯事で、上手く出来ず泣いた事もしょっちゅうだった。だが匠は彼女の作る料理(当初は料理などとお世辞にも言える代物ではなかったのだが)には一度も文句をつけることはなかった。味を濃くしろ、とか、薄く、といった注文はあったが、作ったものに対してはまずい、とはひと言も言わなかった。誰が食べてもまずいといえるものに対してもである。とにかく黙って食べた。その後体調不良を訴えようともひたすら沙織の作ったものだけを口にした。試合で遠征に行った時などは仕方なく用意されたものを食べたが、在宅している時は必ず、どんな場合でもそうした。

  ある意味家政婦のような毎日を送っていた沙織だったが、彼女もまた成績はトップクラスであり、美人で誰にも分け隔てなく優しい女性に成長した。理事長の娘で、望めば何でも手に入るような資産家の家に生まれたというのにツンケンしたところがなく、嫌われる要素の何ひとつない女性だった。しかも趣味が家事といったところも理想の女性という称号を与えられる要因になっていた。唯一の欠点は、体育系に弱いというところだ。だがそれは彼女のキャラクターに汚点を与えるどころか、かえってかわいらしいという表現に変化していた。そんなところから2人は美男美女の理想のカップルだと誰しも思っていた。しかし一年下に加藤亜紀という生徒が入学してから2人の関係に変化が生じた。相変わらず身の回りの世話は沙織がやっていたが、女性を全く近づけなかった彼が、彼女だけは近付こうが何をしようが嫌な顔をしないし何も言わないのだ。彼女は匠の母方の従妹で、入学するにあたって叔母からくれぐれも亜紀を頼む、と直談判されたため特別なのだろう、という噂が生徒間に広まった。しかもあれで周防は結構女には弱いのではないか、といった尾ひれまでついて。

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