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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
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第19話

  約1時間後。沙織は周防家のキッチンに顔を出した。匠の父、正彦は仕事で不在だったが、母の明子はソワソワして沙織を招き入れた。何をそんなに慌てているのだろう。

「沙織ちゃん!大変なのよ!亜紀ちゃんが!」

「えっ。」不安がよぎる。

「亜紀ちゃんが匠の食事を作ると言ってきかないの!何とかして!」

「おばさま。落ち着いて。」

そんなことか。ホッとした沙織だが、明子の慌てぶりは尋常ではない。それもそのはず、以前沙織の代わりに明子の手作り料理を出したところ、大暴れされた経験があるのだ。それを思い出し微笑む沙織に、明子は矢継ぎ早に言葉を浴びせかける。

「おばさま。大丈夫ですわ。匠さんに任せて下さい。食べてくれれば良し。そうでなければまた私が作りますから。ね?おばさま。」

天使のような笑顔で優しく諭されると、誰もがたやすく暗示にかかってしまう。

「そ、そうよね。食べてくれればもしかしたら私の料理も大丈夫ってことですものね?」

うなずく沙織に明子は更に安堵の表情になった。と、次の瞬間、ものすごい足音がした。(ああ、やっぱり・・・)2人は心の中で十字を切った。


  「母さん!なんなんだ、あれは!すぐ止めさせろ!」

匠の顔は怒りで燃えている。明子の隣に沙織の姿を認めると、怒りの矛先は彼女に向けられた。

「おまえもおまえだ!早く来ないから亜紀がとんでもないことをしでかすんだ!早く何とかしろ!」

「お兄さん。いったいどうしたのよ。」

わけのわからない亜紀は匠の後を追って来ると、その腕に甘えながら絡みついた。ところが思い切り手を振り払われ重心を失った亜紀の身体はそのまま倒れた。

「いいか!すぐやれ!」

しかも匠は亜紀を完全に無視した。手を払った時もうるさい虫を追い払う感じだった。

「はい。」

こんなことには慣れている沙織と明子はすぐ行動を起こした。まず、掃除道具を携え匠の部屋へ行き、今や生ごみと化した、在りし日は豪華だったろう料理を片付け、同じく散在した皿やコップ類を集めた。その間匠はただじっとリビングのソファに横たわっていた。状況を飲み込めない亜紀だけがヒステリックにわめき散らし、果ては自分が使った鍋やフライパンを思い切り叩きつけ、こんな家、二度と来ない!と悪態をついて出て行った。

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