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TAKUMI  作者: 水嶋ゆり
101/132

第101話

  確かに軽いデートなのかもしれない。しかしそれは、さほど重要ではない。あの誘拐事件以来、沙織には影ながら数人のSPが付いている。彼らは沙織の行動を逐一榊原に報告する使命も帯びており、簡単にデートする、というわけにはいかないのだ。ただし、ひとつだけ例外があった。沙織が匠と一緒であるということが確認された場合のみ、彼らにはしばしの休息が与えられるのだ。

「ごめんなさい。 せっかく誘っていただいたのですけれど、やはり行けません。私、看病しなくてはならないんです。」

「そうですか。じゃ、今度の日曜はいかがですか?」明らかに取り違えている。

「あ、あの。そういうことではなく・・・すみません!」

慌てて頭を下げると沙織は走って病室に戻った。


  さっきの女性徒はもういなかった。代わりに早苗が着替えと朝食を持って来ていた。匠は窓の方を向いたままこちらを見ようともしない。怒っているのかそうでないのか、そこから読み取る事はできない。早苗は沙織が入ってきたことで緊張の糸がほぐれたのか笑顔を見せた。

「おはようございます。お着替えと朝食をお持ちしました。匠さんの分も用意してありますが、回診の後で召し上がられるように、と榊原が申しておりました。」

早苗は沙織に向かって話しかけながら時々目線をベッドに向けている。よほど匠の存在が気になるのだろうか。彼女が気の毒になった沙織は穏やかな笑みを浮かべ、そっと耳打ちした。

「そんなに気を遣わなくても大丈夫よ。それよりも朝早くから忙しい思いをさせてごめんなさいね。ここは私がしますからあなたはお帰りになって。 ね?」

早苗が持参した包みを受け取り、沙織は急き立てて彼女を帰した。それから小さな吐息を漏らし、包みを備え付けのキッチンに置いた。一呼吸おいてベッド脇の椅子に腰を下ろすと、黙ったままの匠に声をかけた。

「匠さん、どうしたの?さっきからずっと黙ったままなんて・・・何か、怒っているの?」

「――― 別に。 どうしてそう思うんだ。」

やっと喋った匠の声は普段となんら変わらない。しかし相変わらず窓を向いたままだ。

「さっきの。 女の子は誰なの?」気になっていることを聞いてみた。

「さっき? ああ、あの子は剣道部員だ。」

「そう、泣いていたみたいだったけど、何かあったの?」

「何でもない。 それにおまえが気にする必要はない。部内のことに口出しするな。」

冷たい言い方に沙織は言葉なく頷いた。

「それよりも、どこへ行っていた。」

その時になってようやく匠はぐるりと首を回した。

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