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計画

 翌日。部室には、部長を除く全員が石化したような顔で立ち尽くしていた。


 まばたきを忘れ目を見開く者、開いた口が塞がらずによだれを垂らしそうになる者……。

 俺に至っては、その両方に加えて、鼻水まで垂れそうなほど間抜けな面を晒していたに違いない。


「ぶ、部長……どうやったんですか」

 隣で瞳を1.5倍に増量させた緑さんが、絞り出すように声を漏らす。


「あら、簡単なことよ。私たちは社会貢献のために活動している部活で、『社会見学』をさせてほしいとお願いしただけ」


 ……それを、あのエリクサー社が、あっさりと受け入れたというのか。


「シンプル・イズ・ベスト、という言葉があるでしょう?」


 部長は涼しい顔で、流れるように言葉を続ける。

「ただ、先方の都合で参加できるのは五人限定。どうかしら、私と一緒に『社会見学』を楽しみたい人はいる?」


 名乗りを上げたのは、当然ながら俺と遙。そして昨日から息巻いていた二年の本田先輩。

「あの、僕もよろしいでしょうか」

 最後の一枠に、おずおずと手を挙げたのは関君だった。


 如月部長(三年)、本田先輩(二年)、そして俺、遙、関君の一年トリオ。


 副部長の豊田さんも参加を熱望したが、居残り組の統制を理由に部長から却下された。


「これで決まりね。合宿まで一ヶ月を切っているわ。各自、調査課題をまとめておいて頂戴」

 部長は『ポン』と軽く手を叩き、「刺激的な合宿になりそうね」と楽しげに呟いた。




 部活の後、由紀さんの提案で俺たち一年生五人はファーストフード店にいた。


 女子三人は流行のタピオカミルクティーを囲み、芸能ニュースからファッションまで、マシンガンのように話題を飛ばし合っている。


「それにしても奏太君、入部早々とんでもないことに巻き込まれちゃったわね」


 由紀さんの言葉を遮るように、遙が割り込む。

「本当によ、あの夢、怖かったんだから! そうそう、いつも熊五郎の修理ありがとね、緑!」


「いいのよ、私も好きだから……でも、夢のイアって何者なのかしら」


「でさ! 結局、遙と奏太君ってどんな関係なの!?」


 ……ちょっと待て。


 会話の銃弾が飛び交う戦場で、俺にどのタイミングで突っ込めというんだ。


「コミュニケーション能力の暴力だね」

 隣で関君が呆れ顔でアイスコーヒーを啜ると、言葉を続けた。


「でも、よく『SS』なんて手がかりに辿り着いたよね。奏太君はこの国の英雄になれるんじゃないかな」


「大げさだよ。本当にたまたまなんだ。……そうだ、お前ら、間違ってもインストールするなよ」


 そう釘を刺した、その時だった。


(── 貴方は試したのにね)


 心臓が冷えた。空耳じゃない。脳の裏側を直接撫でられたような、生々しい質感。


「誰だっ!」

 椅子を蹴立てて立ち上がり、周囲を見渡す。だが、談笑する学生や親子連れの中に、こちらを見ている者は誰もいない。


「ちょ、奏太!? どうしたのよ」

 四人の視線が、不審なものを見るように俺に突き刺さる。


「遙……今、女の声が聞こえなかったか?」

 俺の問いに、全員が首を振った。


「奏太、疲れてるんじゃない? 今日はもう帰りましょう」

 遙の一声で解散となったが、背中にまとわりつく嫌な感覚は消えなかった。

 

 疲れている? いや、そんな生易しいものじゃない。

 どうか「憑かれて」いるわけではありませんように。俺は祈るような気持ちで、歪んで見える夕焼け空を仰いだ。

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