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謀略

「あら、学校に行ってたの?」


 玄関から現れた遙は、思いのほか元気そうだった。


「どうしたの、上がりなさいよ」

 モコモコの部屋着のまま、彼女が手招きする。

 遙の部屋に上がるのは久しぶりだった。記憶の中の彼女の部屋は、人形で溢れていたはずだ。だが、今の本棚を埋め尽くしているのは『世界の超常現象』や『ロストテクノロジー』といった難解な書籍ばかり。


「なんだか、男の部屋みたいだな」

 ふいに出た言葉に、遙は「そんなことないわよ! ほら、熊吾郎もいるでしょ!」と顔を赤くしてベッドを指さした。


 そこには、太い眉毛をしたクマのぬいぐるみが座っていた。昔、おままごとで『子供役』にされていた熊吾郎だ。

 遙が淹れてくれた紅茶の香りが部屋に広がる。見た目は気丈に振る舞っているが、彼女の指先がわずかに震えているのを、俺は見逃さなかった。


「……何かあったのか?」

 俺の問いに、遙は視線を落とし、ぽつりぽつりと話し始めた。


「昨日、変な夢を見たの。異常にリアルな夢……」

 夢の中で、彼女は一人の女性に話しかけられたという。その女は、『SS』の調査を続ければ奏太に待っているのは『死』だけだと告げた。


「……昨日のショックで、悪夢を見ただけじゃないのか?」


「私もそう思いたかった。でも、その人は『夢じゃない証拠』にって、一つ予言を残したわ」


 遙の視線が、俺の手元に向く。無意識に熊吾郎の頭を撫でていた俺の手が止まった。

「……奏太が熊吾郎を撫でると、左目が取れるだろうって」


 ── え?


 慌ててぬいぐるみに目をやると、古くなった糸が限界を迎えたのか、熊吾郎の左目がポロリと床に転がった。

 背筋に氷を押し当てられたような戦慄が走る。遙の顔から血の気が引いていく。


「奏太、お願い、『SS』の件はもう忘れて。早くアプリを消して!」


「……何を言われたんだ。全部話してくれ」


 俺の言葉に、遙は深く呼吸を整え、意を決したように俺を真っ直ぐに見据えた。


「奏太、よく聞いて。私たちは選ばなきゃいけないみたい。『逃げる』か、『戦う』かを」


 遙の語った内容は、あまりに壮大で、信じがたいものだった。

 多発する『突然死』は、この国を内側から崩壊させるための静かなる戦争。少子高齢化で弱りきった日本から若者を排除し、首謀国が「支援」と称して自国民を移住させ、国ごと乗っ取る──。

 それが計画の全貌だという。


「逃げるっていうのは、見て見ぬふりをして過ごすことだな。 じゃあ、『戦う』方法って?」

 遙は無言で頷き、自分のスマートフォンを差し出した。


 そこには『IA』という見慣れないアイコンがあった。


「夢の中の女……『イア』と名乗った彼女が残した、ウイルスアプリよ。戦う方法はただ一つ。『SS』を配信している『エリクサー』のサーバーに、この端末を直接接続して、システムを内部から破壊すること」


「そんなの、警察に証拠を渡して動いてもらえばいいだろ」


「ダメなの。警察にも首謀国の内通者が入り込んでる。証拠を持って公表しようとした瞬間に、私たちは消されるって……イアはそう言ったわ」


 重苦しい沈黙が部屋を支配する。だが、俺の脳は、先ほど『SS』に触れた時の余韻のせいか、どこか冷静で、奇妙な昂揚感に支配されていた。


「……なあ、遙。明日、あの人に相談してみないか?」


「相談って、誰に?」


「決まってるだろ。こういう非日常は、あの人の大好物のはずだ」


 如月部長。

 彼女なら、この異常な事態を「研究対象」として受け入れ、答えを導き出してくれるかもしれない。


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