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突然死

 重厚な扉を抜けると、そこには別世界が広がっていた。


 ふかふかの絨毯に、天井で燦然と輝くシャンデリア。猫の足を模した曲線美を持つテーブルの上には、アート作品のような料理が並び、揺らめくキャンドルの光を受けて、まるで生きているかのように表情を変えている。


 絢爛豪華──。その言葉がこれほど似合う場所を、俺は他に知らない。


「それでは! 新入部員、佐々木奏太君より一言!」

 豊田副部長の張りのある声で、一斉に視線が集まる。その瞬間、頭の中に用意していたはずの挨拶文は霧散し、真っ白な空白へと変わった。


 ……結局、何を喋ったのか自分でも覚えていない。

「へえ、中学ではサッカーやってたんだ。脚、残念だったね。あ、僕は一年の関 優弥。よろしく」

 隣の席の優弥が、ウェーブのかかった髪を指で弄りながら気さくに話しかけてくれた。

「あ、うん。よろしく」

 そんなことまで喋っていたのかと、恥ずかしさ込み上げてくるが、彼の屈託のない笑顔に強張っていた肩の力が少し抜けるのを感じた。


 自己紹介は続いた。三年生が七名、二年生が八名。そして俺を含めた一年生が五名。

 副部長の乾杯の音頭とともに、宴が始まる。だが、挨拶回りに追われる俺には、料理を味わう余裕など微塵もなかった。至福の表情で高級食材を頬張る遙が、心底うらやましい。


「ねえ、奏太君。遙ちゃんとはどういう関係なの?」

 話しかけてきたのは、丸眼鏡におさげ髪という、絵に描いたような優等生スタイルの美園由紀さんだ。

「ただの幼馴染だよ」

 答えた瞬間、少し離れた席にいた遙の眉がピクリと跳ね、刺すような視線が飛んできた。

「……私も『由紀』って呼んでほしいな」

 由紀さんが不意に俺の耳元に顔を寄せ、吐息混じりに囁く。

「奏太君、結構タイプなの」

 心臓が跳ねた。草食系のおさげ女子、という俺の勝手な定説が音を立てて崩れ去る。告白? いや、まさか。

「うふふ、冗談よ。あんまり緊張してたから」

 悪戯っぽく笑う彼女のギャップに呆然としていると、「ちょっと奏太! 何ニヤけてんのよ!」と、案の定、遙から鋭いツッコミが飛んできた。


 もう一人の一年生、ボーイッシュな蒼井緑さんは、今日の発表で「植物の意思」について熱弁していた。この部活の連中は、誰もがどこか浮世離れしていて、それでいて純粋だ。

 久しぶりに、心の底から笑った気がする。

 だが、楽しい時間は残酷なほど早く過ぎ去った。


「ちょっと遅くなっちゃったわね」

 帰り道、街灯の下を歩く遙がふと足を止める。

「やっぱり奏太は笑ってる方がいいよ。どう? やっていけそうでしょ?」


 返事をしようと顔を上げた、その時だった。

 視界の隅、街角に立つ少女が、不自然にスマホを自らの頭にかざしていた。


 次の瞬間。

 糸を切られた操り人形のように、彼女の体が地面に崩れ落ちた。


「なっ……!?」「えっ?」

 俺は無意識に駆け寄っていた。横たわる彼女の肩を掴み、必死に声をかける。

「おい、大丈夫か!? ……遙、救急車だ! 息をしてない!」

 震える手で彼女を仰向けにしたその時、俺は見てしまった。


 少女が握りしめたスマホの画面に、『SS』のロゴが浮かんでいるのを。


 そして──。


『アンインストール中……』

 という無機質な表示とともに、そのアイコンが、まるで最初から存在しなかったかのように画面から消え去る瞬間を。

 これが、俺が初めて目撃した『突然死』の正体だった。




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