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危機

「だからって……! 動物が! 自然が! 無責任な私達のせいで巻き添えになる未来なんて認めない。許しちゃいけないのよ!」


 緑さんは破損したハンマーを放り出すと、震える手で胸元から一つのスイッチを取り出した。


「緑さん、それは……?」

 俺の問いに、彼女は最期に救いを求めるような、悲しげな微笑を浮かべて呟いた。


「イアが滅びるのは、この星の未来が消えるのと同じこと。私は……世界を救うのよ」


 緑がスイッチに指をかけた瞬間、本田先輩が叫びながら飛びかかった。

「何を企んでるか知らねえが、ヤベエってことだけは分かんだよ!」


 二人は激しく床に倒れ込み、緑さんは後頭部を打ったのか、そのまま意識を失った。


 ── だが。

 弾き飛ばされたスイッチが宙を舞い、床に落ちた衝撃でボタンが押し込まれる。その光景が、思考加速する俺の目には残酷なほどスローモーションに映った。

 直後、コントロールパネルに真っ赤な文字が浮かび上がる。


『起爆シーケンス作動 残り120秒』

 けたたましい警報が鳴り響き、無機質な合成音声が繰り返す。


『全従業員は速やかに退去してください。当施設は二分後に消滅します』


 おそらく『SS』の目的を果たした後、証拠を抹消するための自爆プログラムだろう。それが今、この最悪のタイミングで起動してしまった。


「えっ? え、二分!? 二分なんて、逃げ切れるわけ……」

 優弥が顔を真っ青にしてパニックに陥る。


「奏太! 部長! 早く逃げなきゃ!」

 遙の悲痛な叫びが、サーバーの駆動音にかき消されていく。本田先輩は気絶した緑さんを抱え上げ、「クソッ!」と歯噛みした。


(落ち着け……俺……。思考を回せ、活路を見つけろ!)

 この要塞のような建物には窓がない。壁を破って外に出ることは不可能だ。だが、これだけの施設なら必ず「用意」されているはずだ。


 壁面のサイン、配管の向き、緊急灯の位置。加速した視界が、一か所の不自然な継ぎ目を捉えた。

「みんなっ! そっちじゃない、こっちだ!!」

 非常階段へ向かおうとする全員を、俺は力一杯呼び止めた。


 駆け寄った壁のレバーを全力で引き下ろすと、ロック解除の轟音とともに壁の一部が外側へ跳ね上がった。圧縮空気が送り込まれた脱出用の布製シューターが、裏手の森に向かって一気に伸びていく。


「全員っ、滑り降りろ! 急げっ!!」

 次々に仲間が飲み込まれていく。最後に俺がその入り口に飛び乗った時──。


 背後で、鼓膜を突き破るような爆発音が轟いた。

 衝撃波に背中を押し出され、俺の意識は真っ白な闇へと放り出された。



 ……俺たちが助かったのは、奇跡というほかになかった。


「奏太! お見舞いに来てあげたわよ、感謝しなさい!」


「おいおい、ここは病院だぞ……静かにしなきゃいけないって習わなかったか?」


 カーテンを勢いよく開けて現れた遙に、俺は苦笑いを返した。


「全く、ただの検査入院なのに大袈裟なんだよ」

 少し遅れて、如月部長、豊田副部長、そして少し気まずそうに本田先輩も姿を現した。


「ふふっ。その様子なら心配なさそうね、奏太君」

 如月部長が可笑しそうに口元を隠して笑う。


 爆発の光、吹き飛ぶ瓦礫。あの地獄のような場所から生還した実感はまだ薄いが、こうして仲間の顔を見ていると、ようやく終わったのだと、深い安堵が胸を包んだ。

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