接続
「でも……どこに接続すればいいのかしら」
遙の表情に焦りの色が浮かぶ。
整然と並ぶサーバーラックの列は、巨大な迷宮のように俺たちの行く手を阻んでいた。絶え間なく響くファンの駆動音は、まるで電子の魔物が唱える呪文のように聞こえ、刻一刻と過ぎる時間が俺たちの精神を削っていく。
「メインシステムなら、必ずモニターか入力用のコンソールがあるはずよ」
如月部長の冷静な一言が、全員の意識を繋ぎ止めた。
『ふふっ、流石は如月ね……彼女の言う通り。目指すシステムは左から三列目、その中央付近にあるわ』
イアが囁くと同時に、優弥の声が響いた。
「みんな……これじゃないかな?」
まさに、イアが指し示した場所だった。駆け寄ると、そこには部長の言葉通り、いくつものインジケーターが明滅するコントロールパネルが鎮座していた。
「優弥、やるじゃねえか! 早速始めようぜ!」
本田先輩が興奮気味に身を乗り出す。その先にUSBポートが見えた。
「……わかりました」
遙が震える手でスマホにケーブルを繋ごうとする。その手を、俺は力強く制止した。
イアの顔から、ついに余裕の微笑みが消え、鋭い焦燥の色が漏れ出すのが分かった。
「遙……ここは、俺に任せてくれないか?」
「えっ? ……ええ、わかったわ」
戸惑いながらも、遙は手を引いた。俺は彼女のスマホを預かる代わりに、自分のポケットから「それ」を取り出した。
──あの日、イアに頼んだ「要望」。
『今日ではなく明日の夜、十一時に「IA」をダウンロードさせてくれ』
目的はただ一つ。以前の「SS」の時と同じく、意図的に不完全な状態でシステムを構築すること。
俺はあらかじめバッテリー残量をギリギリまで削っておいた。インストールが50%に達した瞬間、計算通りスマホは悲鳴を上げてシャットダウンした。
再起動した画面には「取得に失敗しました」というエラーログ。だが、ホーム画面には歪な『IA』のアイコンが、バグのようなノイズを伴って居座っていた。
「じゃあ、みんな……始めるよ」
俺は自分のスマホにコードを挿し込み、不完全な『IA』を起動した。
仲間たちが固唾を呑んで見守る中、俺は冷徹に操作を進める。
「じゃあな、イア」
視界の端で勝ったかのような表情の彼女に引導を渡すように、俺は画面上の『送信』ボタンを、強く叩いた。




