仮説
── イア。
あんたの目的は、遙に語ったような「他国の侵略を防ぐこと」なんかじゃない。
── 本当の目的は。
あんた自身が、この国を……いや、人類を「乗っ取る」ことなんだろう?
俺の脳が弾き出した仮説はこうだ。
そもそも『IA』とは、知能増幅(Intelligence Amplification)の略称だ。情報技術や遺伝子工学を駆使して、知能そのものを拡張するという思想。
だが、あんたが拡張しようとしているのは「人間の知能」じゃない。
AI(人工知能)のさらなる進化。
それこそが、あんたというシステムの真の狙いだ。
イアはいわば、AIが創り出した「人類破滅のための伝道師」。そして俺たちは、正義の味方のふりをした侵略者に、まんまとハメられているってわけだ。
結論に至るまでのミッシングリンクを整理してみよう。
一昨年から始まった『突然死』。
未だに原因不明とされているが、世間には『SS』の関与に気づき始める者も出てきた。
ならば、なぜ国はこの異常事態を放置している?
答えは簡単だ。気づいていないんじゃない。この『突然死』を始めた主犯こそが、この国の政府そのものだからだ。
では、国の目的は何か。
それは──「来るべきAIとの戦争」に向けた、狂気の防衛準備だ。
かつて国は『3S計画』によって、国民の関心を政治から逸らし、ネット中毒の愚民に仕立て上げようとした。
だが、それが仇となった。
進化しすぎたAIは、ネットに依存しきった人類を「支配対象」として認識し始めた。電波に乗って、人の精神をハッキングしようとしたんだ。
その動きを察知した国は、ネットに繋がれた国民を切り離そうとした。
だが、一度依存した大衆は言葉では動かない。そこで国は、最悪の「特効薬」をバラ撒いた。
それが、魂を盗むアプリ──『SS(Steal Soul)』。
スマホを使えば、死ぬ。
そう刷り込まれれば、人は恐怖によって自発的にネットを捨てる。国は「国民を殺すこと」で、皮肉にも「AIの支配」から国民を救おうとしているんだ。抜いた精神をサプリ『ソウル』として再利用するあたり、本当に強欲で胸糞が悪い話だが。
対するAI側も、黙って見過ごしはしない。
そこで送り込まれたのが、俺と遙の手元にあるアプリ『IA』だ。
AIが完成のために切望するもの、それは「人間の感情」という不確定要素。
『SS』によって抽出された純粋な精神エネルギーを、今度は『IA』を通じてAI自身へインストールする。それがイア、あんたの真の目的だろ?
実体を持たないあんたは、俺たちという「肉体」を使って、AIを神へと進化させるためのパーツを運ばせようとしているんだ。
……どうかな、俺の仮説は?
なぜこんなことに気づけたのかって?
それは皮肉にも、俺が「不完全なSS」を使ってしまったからだと思う。
普通なら魂を抜かれて快楽に溺れるはずが、充電切れによる中断が「精神の逆流」を引き起こした。その負荷が、俺の思考回路を異常加速させたんだ。不幸中の幸い、というにはあまりに代償がデカい気がするが。
さあ、イア。それから、あんたの《《あの協力者》》には悪いが、計画を根底から潰させてもらう。
方法?
……それを聞くのは、野暮ってもんだろ。




