報告会
合宿二日目。部活としての本番、各自のテーマ報告会が幕を開けた。
朝八時に始まった三年生の発表を皮切りに、二年生が終わる頃には、時計の針は既に十五時を回っていた。だが、不思議と疲れはなかった。先輩たちの研究はどれも緻密かつ大胆で、その地道な裏付けと発想力は、聞く者すべての心を揺さぶる熱量を持っていたからだ。
真剣に取り組む姿勢は、これほどまでに人の心を動かすのかと、改めて実感させられた。
そして、潜入メンバーによる『突然死』に関する発表。
如月部長の登壇は、圧巻の一言だった。膨大な資料から導き出された見解は、この国を蝕む『首謀国』の正体にまで肉薄していた。さらに、あのサプリメント『ソウル』の製造元をエリクサー社と特定し、首謀国と特権階級の間の密約にまで言及する。
……まさに、後で同じ課題を発表する者たちに対して、悪意なき無慈悲な女神のように映ったことだろう。
後続のメンバーが用意していたネタをすべて刈り取ってしまうその圧倒的な知能に、本田先輩が真っ青になって絶句していたのは、ここだけの秘密にしておこう。
「緑にしては、珍しい内容だったわね」
由紀さんが、発表を終えた緑さんに驚きを隠せない様子で話しかける。
「そうかな……たまには人に関わる研究もいいかなって。みんなのテーマに影響されちゃったかも」
緑さんは少しだけ舌を覗かせ、お茶目に笑った。
だが、彼女の発表テーマは『戦争をなくすための感情制御』という、背筋が寒くなるような内容だった。『愛という感情の抑制こそが争いを根絶する』。人間心理の膨大なデータを基に構築されたその結論には、反論の余地がないほど完成されていた。
(……もしそれが真実なら、人間はなんて悲しい生き物なんだろうな)
その後、由紀さん、遙、優弥の発表が続いたが、やはり部長の提示した枠組みを超えることは難しかったようだ。
そして、最後は俺の番だ。
「……すいません。皆さんの発表と内容が重複してしまいました。まさか部長が『ソウル』の件まで突き止めていたとは。俺のとっておきだったんですが」
部長と視線が合う。彼女は「ふふっ」と、挑戦的な微笑を返してきた。
「これは俺の仮説ですが── エリクサーは『SS』を通じて、使用者の脳から精神力……いわば『魂』を抜き取っている。そして、それを精製して『ソウル』という名で特権階級に売り捌いているのだと考えています」
部員たちの間に、ざわめきが走る。
「最後に、一つだけ」
俺は声を一段低くした。これは暗黙の宣戦布告だ。聞こえているか、イア。
「仕組まれた『突然死』を、俺は止めます」
そして俺は、目の前に座っている**「ある人物」**の瞳を、真っ直ぐに射抜いた。
「この国を、好き勝手に乗っ取らせるつもりはありませんから」
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「……はぁ、ドキドキした。俺、何調子に乗っちゃったんだろう」
席に戻ると、一気に冷や汗が吹き出してきた。イアからの反応はない。気づかれていないようだが、あまりに危うい橋だった。
「みんな、お疲れ様。本当に素晴らしかったわ。講評は明日の朝に行うけれど、私たちはエリクサー社へ向かうから、豊田君、後をお願いね」
如月部長が立ち上がり、全員を見渡した。
「……さて、みんながお待ちかねの『あれ』にしましょうか」
『バーベキューだぁ!!』
野性味溢れる歓声が研修室に響き渡った。
明日の朝、俺たちはあの無機質な白い箱── エリクサー社に潜入する。
今夜だけは、この賑やかさに身を委ねてもいいだろうか。それが「最後」にならないことを、俺は心の奥で強く願っていた。




