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単独行動

「……皆、頑張れ! ここを越えれば、目的地だ!」


 本田先輩が俺と優弥(関君)に、ひときわ熱い励ましの声をかける。


 俺たちの額には、月光を反射する大粒の汗が光っていた。行く手を阻むのは、切り立った三メートルほどの岩場。よじ登る掌に力がみなぎるのは、夕食に食べたあの絶品カレーの力か。それとも、人知を超えた情熱の賜物か。


 ── 話を戻そう。俺たちは今、命懸け(?)の単独行動に出ていた。


「あっ……!」

 優弥の足元が崩れ、危うく斜面を転落しそうになる。

「大丈夫か! 気をつけろ、気づかれたらすべてが終わるんだぞ!」


「は、はい。すみません……!」

 優弥の瞳にも、かつてないほどの闘志が宿っている。

 崖を登りきると、目の前に木造の巨大な壁が立ちはだかった。辺りには白い湯気が立ち込めている。


 そう、ここは宿舎が誇る『露天風呂』の裏手。俺は破裂しそうな胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。


「本田隊長! この壁では中の様子が伺えませんが、何か策があるんですか?」


 俺の問いに、先輩は驚愕の事実を告げた。

「いいか、一年坊主ども。俺はこの日のために、去年の合宿で女子風呂の壁に『夢のドリーム・ホール』を穿っておいた。俺と同部屋だった幸運を噛み締めろ!」


 遙の言葉に嘘はなかった。本田先輩は、女子にとっては『ナイス(ガイ)』で間違いない。


「さあ、お前ら。行くぜ!」

 本田先輩が指さす先に、小さな一点の光があった。俺たちの希望の光が。


「「隊長! よろしくお願いします!」」

 俺と優弥の懇願に、本田先輩は厳かに頷き、その穴へと片目を押し当てた。


「お……おぉ……」

 先輩の目が見開かれ、体が石のように硬直する。


(隊長! その続きは何ですか! 『大きい』ですか、それとも『お尻』ですか! 情報を……我らに情報を!)


 お預け状態が限界に達した俺たちの耳に、本田先輩が掠れた声で呟いた。


「……っさん……」

(誰さんですか! 名詞を、どうか名詞を教えてくださいタイチョー!)


 そして。

「すまない……この不甲斐ない俺を許してくれ」

 先輩は崩れ落ちるように後ずさり、そのまま地面に尻餅をついた。


 嫌な予感を覚えつつ、俺は代わってその穴を覗き込む。

 ……視線の先。

 立ち上る湯気の向こうで、こちらに正面を向き、豪快に頭を洗っているおっさん── もとい、豊田副部長の姿があった。


 どうやら、今年から男湯と女湯が入れ替わっていたらしい。

 俺たちの熱い夜は、石鹸の泡とともに虚しく消え去った。


(※良い子は絶対真似しないでね! のぞきダメ絶対!)

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