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合宿

 その後、嵐の前の静けさのような日々が続いた。

イアからの干渉も影を潜め、あの不気味な声を聞くこともない。


 エリクサー社潜入に向けた情報収集も、思うような成果は上がらなかった。遙のスマホにある『IA』というアプリについても、情報処理部の精鋭たちが「こんなコードは見たことがない」と頭を抱えて匙を投げる始末だった。


 とはいえ、俺もただ指をくわえて待っていたわけではない。加速した思考が導き出した一つの仮説は、父さんからの情報によって「確信」へと変わっていた。

『ソウル』の製造元は、やはり『エリクサー社』だった。


 俺は誰にも悟られないよう、密かにある「備え」を済ませた。たとえそれが、取り越し苦労に終わることを願うような内容だとしても。


 そして、合宿前日。部室では最終打ち合わせが行われていた。


「── 本当に、奏太の点数を見た時は心臓が止まるかと思ったわよ! あと一点で赤点(欠点)だなんて。補習に引っかかったら合宿に行けなかったじゃない!」


 遙……? 何も全員の前で公開処刑しなくてもいいだろ。部室に押し殺したような笑いが広がる。


「まあ、結果オーライということね。それにしても……ふふっ」


 部長まで笑ってるし。穴があったら入りたいとはこのことだ。

「……ほ、他の教科は五点くらい余裕ありましたよ!」

 弁解のつもりで放った一言で、今度は部室が凍りついた。どうやら俺の掘った穴は、自らの墓穴だったらしい。


「さて! 各自準備に抜かりなく!」

 豊田副部長の張りのある声が、沈黙を破る。

 二泊三日の合宿は、研究発表ばかりではない。海水浴にバーベキューと、心躍るイベントが目白押しだ。何しろ部員の男女比は三対七。彼女たちの水着姿を想像するだけで、不謹慎にも心臓の鼓動が早くなる。


「あ、あの、奏太さん大丈夫ですか? 鼻の下が2倍に拡張されていますが……」

 緑さんの冷ややかな指摘で我に返ると、じっとりと俺を睨みつける遙と視線がぶつかった。


 肝心のエリクサー社への潜入は、最終日の三日目に決行される。

 冷静に考えれば、俺たちがやろうとしていることは立派な犯罪行為だ。浮かれている場合じゃない、気を引き締めなければ。


 明日、俺たちは戦地へ向かう。

 願わくば、俺の仮説が間違いであってほしい。


── 仲間を疑うなんて、これ以上はしたくないから。

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