表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/24

── なあ、お前、知ってるか? ソシャゲのガチャが無料になるアプリのこと。


── うん。噂は聞いたことあるけど、僕、スマホゲームはあんまりやらないんだよ。だから使ったことないけど。


── まあ、使わない方がいいかもな……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 終礼が終わり、教室内は一気に喧騒に包まれる。授業という重石から解放されたエネルギーが、言葉の洪水となって溢れ出していた。


『今日、どこ行く?』

『明日も練習あるよな!』


 そんな何気ないやり取りが、今の俺には少しだけ眩しすぎる。


「ねえ、奏太。ぼーっとしてどうしたの? 私の話聞いてる?」

 隣の席から、幼馴染の遙が顔を覗き込んできた。


「ん、ごめん。聞いてなかった」

「もう、今日は事象研究部を見に来るって約束でしょ?」


 遙は不満げに頬を膨らませた。家も隣同士で、共有道路で一緒に遊んで育った彼女とは、兄妹のような腐れ縁だ。彼女は昔から「太陽の温度は磁場の影響で実際は30度もない」なんて持論を1時間も語り続けるような、空想と理屈が大好きなやつだった。


 高校で彼女が入部したのは、事象研究部、通称「オカ研」。怪しげな名前だが、部長が新種の昆虫を発見して表彰されるなど、意外にも実績のある部活だ。


「奏太、いつまでも落ち込んでちゃダメよ。私が研究の楽しさを教えてあげるから。ほら、行くわよ!」

 彼女の言葉が、古傷に触れる。

 中学3年の県予選決勝。足首に刺さった相手のスライディング。脳裏にこびりついて離れない『ブチッ』という断裂音。


「……」

 無意識に暗い顔をしていたのだろう。遙がハッとして、申し訳なさそうにこちらを伺っている。その気を遣わせる感じが、余計に胸に刺さった。俺は無理やり口角を上げ、おどけてみせる。


「わかったよ。そんなに言うなら、俺も何か……そうだな、『女体の神秘』でも研究してみるか」


「……バカじゃないの」

 遙が呆れたように笑う。それでいい。同情されるよりは、呆れられている方が楽だった。



「失礼しまーす! 入部希望者を連れてきました!」


 遙の明るい声が部室に響いたあと、続けて自己紹介をした。


「佐々木奏太です。今日は体験でお邪魔します。よろしくお願いします」


「体験!?」

 その言葉に遙が横で目を丸くする。

 ……まだ入部すると言った覚えはないんだけど。


 部室の奥で談笑していた二人の男子が口を閉じ、

 代わりに、奥のデスクに腰掛けていた一人の女子生徒が立ち上がった。


「初めまして、部長の如月です。遙から話は聞いてるわ」


 如月部長は長い黒髪をかき上げた。指先の動き一つに、同い年とは思えない大人の余裕が漂っている。


「奏太君は、何か調べたいテーマはあるかしら?」

「いえ、特には……。強いて言えば、最近ニュースでよく見る『突然死』についてでしょうか。どうして健康な人が急に、と思って」


 部屋の空気が、ふっと密度を増した。

 部員たちの視線が俺に集中する。如月部長は目を細め、獲物を見つけた学者のような、鋭くも艶然とした微笑を浮かべた。


「あら……奇遇ね。今、私もその件で調査を進めているところなの。どう? 入部してくれたら、私とチームを組まない?」


 拒絶を許さないような、真っ直ぐな視線。

 彼女は俺の耳元に顔を寄せ、秘密を共有するように囁いた。

「原因は、『魂を奪うアプリ』の存在だと睨んでいるわ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


── それって、どういう事?


── 先月、俺の親戚が突然死したんだ。例のガチャ無料化アプリを使ってて。


── それは可哀想に……。


── 例によって、死因が老衰に似ていたらしい。亡くなる直前もそいつと話してたんだけど、その時は『ちょっと身体がダルい』とか言ってたんだ。

 でも、ソシャゲの話をしてる時はピンピンしてたんだよ。課金せずにガチャができるアプリのお陰で、すっげー強くなったとか。


──それが、さっきの話にあった……。


── そう、『SS』っていうアプリだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ