最終章 梅雨の思い出
何故あんな桜の木の下で泣いていたのか、想像もつかない。
家に帰った後、ベッドに寝転がる。
尻に何だか違和感を覚える。
ポケットをあさってみた。
でてきたのは紙切れ。
何か書かれているのか一通り確認する。
知らぬ間にか拾っていたのだろう。
捨てようとも思ったのだが、メールアドレスのようなものが書いてあったためそんな気にはなれなかった。
念のため携帯に入力してから机の引き出しに入れておく。
何かあったときのために。
それから日々というのはあっという間に過ぎていった。
だけど僕の心の中からは何かが無くて、まるでドーナツの穴のようだ。
それから一年たった、桜が咲きほこる頃だった……
何気なく僕は引き出しを開ける。
本当に、なんとなく。
開けたとき、一枚の紙切れがあった。
ピントが合っているのはそれだけだ。
体が勝手に動いた感覚。
紙を開いた。
それを読む。
『《春樹の記憶について》(推測)
・私についての記憶は森と外とでは共有出来ない。
・私についての記憶は日付をこえると名前と会ったこと以外忘れる。』
私とは何か、僕には思い出せない。
でも一年前に一度読んだような気がする。
その時には気がつかなかった、もう一文のメッセージ。
隅のほうに、さりげなく。
『一年後、一目見たいな』
何故かその文字が揺れる。
なんでなんだろう。
僕は靴を履いた。
足を見た。
消えかけている。
だが恐怖心などはない。
まるでそれが宿命だったことのように。
行く場所は決まっている。
ドアを開けて走りだす。
大切な何かを求めて。
桜の並木を抜けて森に入る。
外で降る雨の音なんて耳に入らなかった。
そこには、いつもの桜。
満開に咲き誇る、綺麗な桜。
そこの前に一人の少女が覚えている。
携帯に通知が届いた。
『覚えててくれたんだね』
と、そう書いてある。
彼女の髪が風で揺れる。
ひょっとすると僕は忘れたかっただけなのかもしれない。
彼女が消えたという事実に。
記憶の奥底では、全て覚えていた。
一年前の出来事。
桜の木に吸収されていく彼女の姿。
僕も最期はそうなること。
そこからは歩いた。
ゆっくり、ゆっくりと。
近づくと、彼女の姿は消える。
見れたのは良かったのかもしれない。
僕はあの時のように桜の木をさする。
木なのにどこか温かい。
僕もその木に吸収されていく。
そして紡いだ。
僕の単純な気持ちを。
「僕、頑張るよ……」
そこで僕の意識は途絶えて、最期に雨の音が聴こえた__
皆さんは梅雨が訪れる頃、どんなことを思うのだろう。
子供なら外で遊べなくて悲しい。
農業をしてる人なら嬉しい。
そんな人間の感情と同時に、梅雨の雨は春の終わりを告げるものでもある。
僕にとっては……だが。
今は人間のいう神様として人々の人生を、シナリオを創っている。
決してそれがいいものとは限らない。
でも桜を見て、雨を見て。
僕のように何かを感じてほしい。
『梅雨が訪れる頃』に______