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学校のゼロ不思議(2)

 

 

 九月二十一日 午前十一時五十分 ショーコ宅



「七不思議って。ああいうのって大体小学校まででしょ?」

 さつきは掴んでいたショーコの手首を離し、座椅子にもたれ掛かった。

「お、おお!やはりこの話題には食いついてきた!さすがさつきちゃんだよ」

 うんうん、と頷きながらショーコはテーブルを挟んでさつきの正面に座り、テーブルの上にリモコンを置いた。


「わたしさ、小学校ではけっこう頑張って二十八個ぐらい不思議を見つけたんだ。ねえ、二十八不思議だよ!四校分を一校に詰め込んだ状態だからさ、もう不思議が校庭とか廊下にあふれ出てるっていうか」

「へえ・・・。そう」

「んで中学ではね、さつきちゃんの言う通り結構苦戦して。なんかあんまり不思議が無くてさ。まあおまけして九不思議。実質六不思議は確保したんだよ」

「はいはい。あんたが適当に作ったんでしょ、そのおまけ分は」

「ふ、それは否定しないよ。まあ結局不思議なんてもんは数だからさ」

 ショーコはテーブルの上に置いてあったリモコンを手に取りクルクルと回した。

「で?何が言いたいの?」

 テーブルの上に頬杖をついて、さつきは自分の端末を操作しながら言った。

「思い出したんだ。わたし高校では不思議発見出来てないんだよ!なんもないんだよ!」

「いや、単純に無いからでしょ。しょうがないじゃない」


 わたしはねえ。ショーコはそう言って立ち上がり、キッチンスペースの冷蔵庫からコーラのペットボトルをを取り出して、はいよ、と言ってさつきに投げた。


「は?なによ、コーラって。というかその言い方とか」

 ペットボトルを受け取ったさつきは、めんどくさい、と言いながら立ち上がって冷蔵庫に受け取ったコーラをしまい、自分で買った水を取り出して飲んだ。


「ちょ、ちょっとさつきちゃん。そこは、なんだよ、急に?とか言いながら蓋を開けてだね・・・」

「何回も言ってるでしょ。水分でカロリーは摂らないって」

「ぐ、いいシーンの中で喋りたかったのに。あ、えっとね。やり直すとだね」

「やり直すぐらいなら最初からしなければいいでしょ」

 さつきはテーブルに水を置き、座椅子に座った。

「わたしはね、言うなれば不思議エリートなんだよ。これまで数々の不思議を発見してきて後世に残してきたつもりだし。特にわたしがいた小学校は向こう三十年は不思議に困らないはず」

「まあ時代背景と共に変化すると思うけど」

「うんうん。それを踏まえても、だよ。そのわたしがさ、このままゼロ不思議で高校を卒業するなんて。さすがにちょっとさ、なんか生理的に無理っていうか」

「あ、ちょっと。あんたまさか自分で」

 俯き加減で喋っていたショーコは、くっく、と言いながらゆっくり顔を上げた。


「さすがさつきちゃん。無いならば、作ってしまえばいいじゃない、不思議の一つや二つさ」

「ばかじゃないの。自分で作ったら不思議じゃないでしょ」

「不思議かどうか決めるのはわたしじゃないよ。その学校に通う生きた人間達だから。それで」

 これを、と思ってね。ショーコは台所に置いてあるビニール袋を指差した。


「あ、なんかゴミが増えたと思ったら。あれなんなの?」

「いやー、どっかの準備室のカーテンを入れ替えるって話を聞いてさ。古いのを数枚貰ってきたんだよ」

「白い布なんて。そんなのゆう」

 はっ、としたさつきは口を覆いショーコを見た。

「相変わらず最短距離を突っ走ってくれるねえ、さつきちゃんは。そう、あれを使って不思議を作ろうよ!というか昨日からその打ち合わせと作業をやりたかったんだけど、さつきちゃんは、死んだのに歩いてる人が彷徨う海外ドラマに夢中になって・・・」

「何でそんな作業なんか。大体あのドラマだってあんたが観ようって言ったんでしょ!」

「なんだろ、ちょっとリラックスするつもりでっていうか、なんならストレッチっていうか。そういうためのものだったんだけど」

「続きものをそういうのに使おうってのがおかしいでしょ!で、なんか案はあるの?」

「それがねえ。白い布を眺めていてもなにも思いつかなくてさあ」

「それどれぐらいの大きさなの?」

「お、出してみるかい?」

 ショーコはそう言ってビニール袋に入っていた布を取り出した。


「ちょっと、これ思ったより・・・」

「そう。大きんだよー」

 カーテンを二枚広げると、八畳ワンルームのショーコの部屋の床は、ほぼ白い布で覆われている状態となり、さつきとショーコはキッチンの前でその様子を見ていた。


「ねえ、さつきちゃん。なにか閃いたかい?」 

 口に手を当てて座り込み布を触っていたさつきは、

「そうね。例えば、この布をあんたが被るというか着て、それで校舎の隅にでも立ってる、とか」

「え、ええ。要は女が白い服を着てたたずんでいる感じ?ごめんさつきちゃん。それはちょっと高校生がする不思議ではないっていうか。若干対象年齢が低めの上、ひねりも何もないっていうか」

「べ、別にいいでしょ!というかああいうのは全年齢対象だし!」

 じゃあ、あんたは何かあるの?さつきは乱暴に布をひっぱってショーコの前にかざした。


「ご、ごめん。そうだよね、言わばマリオだよね。マリオをばかにしちゃいかんよ。うんうん。マリオは面白いよ!」

「じゃあ、いいのね?さっさと終わらせたいから」

 この辺に寝なさい。さつきは部屋の中心部を指差した。

「え?ね、寝る?まだ午前中だよ?」

「いいから。横になりなさい」

 さつきはショーコを無理やり仰向けで横にさせた後、マジックを取り出して体の縁取りを始めた。


「ちょ、ちょっと待って。ねえ、さつきちゃん。まさか」

「ん?」

 さつきは線を引きながら答えた。

「あのう、その。わたしの体の型みたいなの今やってるんだよね。そしてそれを二枚合わせて服っぽい感じにしようとしてるんじゃ・・・?」

「そうだけど?それで白い服出来るじゃない」

「い、いやその。なんか仕上がりが予想できるんだけど。こうかなり雑な宇宙服風になりそうな気がして、さ」

「もっと体のラインにフィットした方がいいの?」

 さつきは手を止めてショーコを見た。


「それはそれで着るの大変そうだよ。もっと簡単でいいのでは、っていうか大体にしてわたしが白い服着る係なの・・・?」

「あんた以外誰が着るのよ?」

「ごめん、わたしの予定ではさつきちゃんを。正直さつきちゃんをこう、うまく乗らせてさ。ぐるぐる巻きのカーテン女とかにしてね。んでわたしは撮影と情報のばら撒きに専念しようと」

「カーテン女って。なにそれくだらない。大体そういうのって後からついてくるものだから。自分で考えたって。ほら!動かないで!」

 さつきはショーコの肩を押さえつけた。

「ちょ、ちょっとこれは。うう、恥ずかしいよ。こんな服で学校に入れないよ!」

「は?学校に行かないと、学校の七不思議にならないし」

 さつきは注意深く肩のラインをなぞった。

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