学校のゼロ不思議(1)
九月二十日 午前十一時二分 ショーコ宅
「ね、ねえ。さつきちゃん。ちょっと休憩しよう?ほら飛ばし過ぎはよくないよ。こう、じっくりと舌で味わって堪能するというのが素材本来の美味しさをだね」
「は?一気に観ても、少しずつ観ても内容は変わらないでしょ」
さつきはモニターから目を離さずに言った。
前日の土曜日、夕方からショーコの家に来たさつきは、これほんとに面白いから一緒に観よう!とショーコに勧められたゾンビ物の海外ドラマを、勉強しながら片手間に眺めていたが、二話が終わるころにはテキストを片付けて、食い入るようにモニターを凝視しており、ショーコが、何か食べに行こう、ねえ。と何度か声を掛けたが、さつきは後でいい。とだけ返すだけで、心配したショーコが用意したチャルメラを半分に分け、音を立てないように静かに食べながら、さつきとショーコはそのまま海外ドラマを見続けた。
観始めてから八時間後の午前二時頃、ショーコは、ごめん先に夢の中に行くよ・・・。と言い残しマットレス上で横になったが、さつきはシーズン1が終わるまでと決めていたので、午前三時半に最終話を見終えてから、いつものように座椅子を傾け、さつき用のカラーボックスからブランケットを取り出し、部屋着に着替えてから寝た。
そして今日午前七時にアラームで起きたさつきは、ショーコを無理やり起こして続きを見始めた。ショーコは、わたしシーズン4まで観てるからさつきちゃんが追いついてからでも・・・。と言いながら再び寝ようとしたが、どうせならあんたも復習がてら観なさい、とこたつテーブル付近まで引きずり出され、ショーコはうつらうつらしながら、ゾンビが圧倒的火力で蹂躙される様子を眺めていた。
「関係あるよ!だってわたし子どもの頃買ってたプロ野球チップスのカードさ、いいことした後に開けてたよ。なんか中身変わってる気がして」
「関係ないし。いいんじゃない、好きなタイミングで開ければ。結局中身一緒だけど」
さつきは床に置いてあったうまい棒を拾い、しずかに一口ずつ食べた。
「さ、さつきちゃんがうまい棒を。こんなもの食べる方が体にマイナスだ、とまで言っていたのに・・・」
「しょうがないでしょ。これしかないんだし」
うまい棒が入っていた空袋をテーブルに置き、さつきは他にも落ちていなか、モニターを観ながら床に両手を這わしていた。
「なんてこと。ゾンビを観ていたらさつきちゃんがゾンビ的な動きを」
ショーコはさつきが握りしめていたリモコンを奪い、一時停止にした後、モニターの電源を切った。
「ちょっと、なにするの!」
ショーコが持っているリモコンを奪い取ろうと、さつきは手を両手を伸ばした。
「ひい、これは危ないって!連続視聴で無意識にゾンビが染みついてしまってる!」
「別に、そう、いう」
ショーコの左手を抑え込みながら、リモコンを手にしようとしていたさつきにショーコは、
「ね、ほら。明日学校だし。今日はこの辺で。ゾンビは今度やるから、お腹いっぱいってなるぐらいに!」
「今度ってなによ、とりあえず今」
「あ、ほら。さつきちゃん。学校といえばだね。そう、学校の話をしよう」
「はあ、学校?」
さつきはリモコンを持ったショーコの手首を握りしめながら言った。
「ほら、学校。んで学校と言えばさつきちゃんが大好きな、学校であった怖い話。もしくは」
ショーコはリモコンをテーブルに置いてさつきを見た。
「学校の七不思議だよ」