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生まれたての廃寺(6)



 九月十一日 午後十一時二分 廃寺敷地内



 階段を降りた後、ショーコは一人駐車場付近をうろうろしており、さつきは階段とその上にある本堂をぼんやりと眺めていた。


「さつきちゃん、これ見てよ!寺の説明が」

 ショーコは寺の沿革が書いてあるボードを見つけ、手招きしてさつきを呼んだ。

 

 ふーん。と言いながらさつきはショーコに近寄って横に並び、ボードを見上げた。

「ふむふむ、けっこう歴史ある寺なんだねえ。やっぱこれ系のボードは下からライト当ててなんぼ、って。え、ええ!さ、さつきちゃん。ここ見て!」

「え、なによ」。

「階段の横の外灯、去年作ってる・・・」

「は!?去年って、え。そんな」

「ここ廃寺になりたてだよ。廃寺歴一年弱だよ!」

「だからこんなにきれいだったんだ」

「どうせならさあ。最後のとこに、○○年〇月 廃寺となる。とか書いといてくれればわかりやすいのに」

「いや、そんなの書くわけないでしょ」

「でもさ、地元の協力のもと階段の外灯を作る、みたいに書いてるでしょ。これみんな切ないよね。作って即廃寺はさ」

「まあいろいろあったんじゃないの。後継者の問題とか」

「そっかあ。だからかなりイレギュラーな廃寺ができたんだねえ。これはなかなかお目に掛かれないよ」

 ショーコは再び階段の下まで行き寺を見上げた。


「ねえ、ショーコ。ちょっといい?」

 さつきはボードの横にあったベンチに座りながら言った。

「はいよー。なに?今日のまとめかい?」

「まとめっていうか」

「ちょっとお。そんなもったいぶってー」

 ショーコはさつきの横に座った。


「なんかさ。廃寺と聞いてなんとなくイメージがあったんだけど」

 さつきは足を組んで手を口に軽く当てた。

「うん、あるよお。こうボロボロの、なんていうかボロボロの」

「考えてみたら廃屋だって、程度っていうか、それぞれ状態違うよね」

「そうだよねえ。誰だっていきなり中年じゃないし」

 ここはそうさのう。ショーコは寺の沿革が書かれたボードを見ながら、いわゆる、うーん。と言い、次の言葉を探していると、さつきは正面にある階段を見ながら、

「そうね。ここはまだ生まれたての廃寺、ね」

「ちょっと!ま、またいいところを。わたしは、できたての廃寺、って言おうと思ったのに!毎回ずるいよ、さつきちゃん!」

「なによ、ずるいって。でね、大体廃寺になるパターンってさ。徐々にっていうのが多いと思うのよ。こう設備とかにしても」

「ああー。高齢の住職一人でなんか色々やることになって、全体的に雑になってみたいな?」

「ちょっと違うけど大体そうね。そういう場合ってさ、参る人も少なくなってきてると思うんだ」

「うんうん。打順が後ろになって、たまにスタメン落ちするようになってきたって感じだよねえ」

「は?なにそれ。でもここはさ、こんなにいい状態で残ってるってことは廃寺になる直前まで普段通りやってたってことでしょ」

「そうだねえ。サイ・ヤング賞とか沢村賞とった次の年にいきなり引退するみたいなもんだよねえ」

「だからなによ、さっきから。またアニメ?」

「うん。わかりやすく例えようとして失敗してるんだ、わたし。でもさつきちゃんがわからないと思って言ってるところもあって。確信犯だから気にしないで」

「はいはい。でね急だったとしたら、まだ参った人の思いって残ってると思うんだ」

「あー。なるほど。いきなり廃寺だもんねえ。前の監督がやってた投手起用のローテがまだあるってことかあ」

「・・・。なんで投手がここにでてくるのよ。でね、その思いっていうかそういうのを廃寺はコントロールできるのかな?普通なら寺として消化できるはずの、参った人が発した、念、っていうか」

「なるほど、念かあ。普通の徐々に廃寺になるんだったら、参る人も少なくなってくるし。廃寺になりかけの寺でも処理できるってことね」

 え、じゃあ。ショーコは立ち上がって寺を見た。


「廃寺って、急に廃寺になるか、廃寺になりたてがまずいってこと・・・?」

「そうね。さらにここって」

 さつきは寺に登る階段を指差した。

「まずいよ、さつきちゃん。ここはその両方を兼ね備えた、まずい中のまずいやつだよ!」

「なんかさ。そう思ってみると」

 さつきはショーコの横に立った。


「そう言われてみると、なんかこう見られてるような気がしてきた・・・」

 さつきちゃんは?ショーコは小刻みに震えながらさつきを見た。

「わたしもよ。さっきからずっと視線を感じるような気が」

「ねえ、さつきちゃん。ここから早く立ち去ったほうが。思い返してみれば、わたし若干廃寺をばかにしたような発言をしたような」

「今頃きづいたの?あんたはずっと」

「ひ、ひいいいい!」

 さつきは背を向けて走り出そうとしたショーコの肩を掴んだ。


「ちょっと!目を逸らしちゃダメでしょ!」

「あ、ああ。ごめん。基本中の基本を。わたしとしたことが」

 ショーコは寺を見据えながら少しずつ後ずさりした。

「そう。敷地内はそうしなさい」

「わ、わかったよ、さつきちゃん」

「敷地を出たら一気に下まで駆け下りるから。いい?」

「まかせて、その辺抜かりはないよ!」

 

 さつきとショーコは寺を視界に捉えながら、すり足で後ろに進んだ。

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