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生まれたての廃寺(4)

 


 九月十一日 午後十時二十五分 廃寺周辺



「そろそろ着くよ、さつきちゃん。もう一本先の道路から入っていくっぽい」

 さつきとショーコは再び両側を田んぼに挟まれた道を自転車で進んでいた。

「やっと、ね。というか場所わかってたんでしょ」

「そりゃあそうさ。案内するのにもコツは必要だからね」

「コツとか関係ないし。わかってたんなら答えて。ここのどこが帰り道なのよ!思いっきりわたしの家通り過ぎてるし!」

「いやあ、大丈夫。地球単位からみたらね、結局同じ点だよ」

「ほんとあんたは毎回・・・」

「ほら、気を取り直して。あ。こっから、右に」

 ショーコは目の前に現れた小さな山道を指差した。

「え、ここ登るの?ほとんど登山じゃない」

 さつきは自転車を降りて鍵を掛けた。

「うーん、アスファルト舗装は行き届かなかったかあ。まあいいじゃない。結局廃寺になったんだから無駄な税金を使ってないってことで」

「無駄って・・・。また失礼なことを」

「とりあえず進んで見ようよ」


 ショーコはさつきの自転車の横に自分のを停めて、二人は山中の道に入った。


「お、看板があるよお。ええと、廃寺はこの道を行ったところにあります、か」

「廃寺とは書いてないでしょ、税金のことといいほんとさっきから」

 さつきは端末のライトをかざして看板を見た。

「おお、ライトか。なるほどなるほど」

「なによ、照らしながらじゃないと進めないし」

「うんうん。そうだよねー。だからもしもの時のためにわたしのは使わないでおくよ。帰り道になにがあるかわからないから」

「まあ、確かに。わたしのも急に壊れるかもしれないから、安全に行くならそのほうがいいかも」

 じゃあ、行くよ。さつきはそう言って歩き出し、ショーコが後に続いた。


「いやあ三草山を思い出すねえ、さつきちゃん。あれはいい山だよ」

 さつきとショーコが歩く山道は車が一台通れる程度の幅で、また道路の脇は木々が覆いかぶさっているためさらに道幅を狭めていた。


「あれから行ったの?」

「まあ、それは・・・。行ってないんだけど」

「ふーん。あんたのいい山ってその程度なんだ」

「ご、ごめん。多少調子に乗ったことは認めるよ。何がいい山かっていうのも正直わかんないし・・・」

「わかればいいのよ。自分の発言には責任を持ちなさい」

「うん。これからむやみに山の話はしないことにする・・・」


 しばらく二人で歩いていると地面が土からコンクリートで舗装されたものになった。

「あ、道が」

 さつきは気が付いて足元を見た。

「ねえ、さつきちゃん。今暗くて見えなけど、これあれでしょ。アスファルトより安そうなグレーっぽいコンクリートのやつでしょ」

「なにそれ?」

「よくあるじゃん。ほら、例えばあそことかに使われて。あれ、ええと。絵は浮かんでるんだけど」

「思いついていない時点でよくあるとは言えないわね」

「いや、違うんだよ!どんなところとは言えないけど、よくあるんだよ!なんか気持ち雑な塗りかたのやつが」

「はいはい、取りあえず行くわよ」

「ううう、わたし嘘付いてない。ほんとに、ほんとうに。ただ出てこないだけで!」

「はいはい。でもほんと暗くて何も見えない」

「大丈夫、舗装してあるから安心だよ。何かあっても走って逃げられるよ」

「ばかじゃないの。これから行くのって寺だよ。走って逃げられるものだけじゃないし」

「あ。確かに」

「まあ大丈夫だと思うけど。大体わたしたち何もしてないし」

「そうだね。よしよし、あの寺に久しぶりに行ってみよーっと。あれー、あいたー。廃寺になってたあ。やっちまったー。ってスタイルで行こう。最初から廃寺だとわかって遊びに来たと思われたら、廃寺に怒られそうだし」

「止めとけば?あんたのその演技は廃寺を刺激するだけよ」

「いやいや、いくら何でもさっき、廃屋、で検索してたら流れ流れてここまで来たことはわからないよ。そこまでさかのぼるというのはいくら廃寺でもできまい」

「そういうことじゃない。いや、まあ、それもそうね」

 さつきは口に手を当てながら言った。

 

「うむうむ。でも結構登ってるよ、以外に遠いねえ。呼吸とふくらはぎがきつくなってきたよ」

「なによ、これぐらいで」

「さつきちゃん、なぜここが廃寺になったかわかったよ」

 ショーコは息を切らせながら言った。

「え?」

「入り口から遠いんだよね、車ないと高齢者の人上がるの大変だもん。みんな近くの寺に行くよ・・・」

「それは、まあ。でも何か理由があるはずよ、山の上にあるのは」

「ふ、それが現代人を納得させられるものかな。廃になったということは、できなかったんじゃないかな、と」

「だからまたそんな。あ、あそこ。光が」

 さつきはカーブを曲がった先を指差し、走り出した。

「え?ここに来てスパート!ちょ、ちょっと待ってよ、さつきちゃーん!」

 端末を手に持ったまま走り出したさつきを、ショーコは慌てて追いかけた。



「お、おおお!着いた。廃寺に着いた!って。え?」

「明るいわね。ここ。廃寺なの・・・?」

 

 さつきとショーコは照明で照らされている二十台程度が停められるであろう駐車場で立ち止まった。


「あれ。ここ、きれいなアスファルトだよ」

 足元をたんたんと何度か踏んでショーコは言った。

「あっちのトイレも。屋外だけどなんか綺麗そう」

「あ。あれ」

 ショーコは階段を指差していった。

「ああ、上に続く階段。本堂は階段を上ってからね。でもあれさ、両端に外灯が付いてるんだけど・・・」

「うん、さつきちゃん。むしろライトアップされてて、すてきな寺の部類に」

「まだわからない。とりあえず行ってみましょう」

 さつきとショーコは本堂へと続く階段を上り始めた。

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