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ショーコ中古マンションを買う(6)



 九月六日 午後八時十一分 中古マンション内



「これで一通りは終わったよね」

 マンションの玄関でさつきは四十代店員からもらった間取りを見ながら言った。

「うん。一階にトランクルームもあるみたいだけど」

 さつきが持っている紙を横から覗き込みながら、カメ子はこれまで周った場所を確認した。


「あのう、わたし活躍できた・・・?」

 廊下の壁にもたれリュックの紐を握りしめながらショーコは言った。

「どうかな?この場合の活躍っていうのがよくわからないけど」

「高野さん、甘やかしちゃだめだよ。こいつはドアと靴箱を開けたり閉めたりしただけ。いる意味なかったし」

「まあそう言われればそうなんだけど」

「ねえ、高野さん。ちょっとあっちで一回整理しない?」

 カメ子は和室を指差した。

「そうね。その方がいいかも」

 さつきとカメ子は玄関から和室に移動し、ショーコは俯きながら二人に付いて行った。



 夕暮れ時が終わった和室の部屋は真っ暗で、さつきとカメ子は主電源と部屋にあった電気の紐を引くタイミングが合わず、最後は二人で、引くよ、押すよ、と声を掛けながら部屋の電気を付けた。


「で、亀山さん。見た感じどう?」

 和室に移動したさつき、ショーコ、カメ子は、真ん中に間取りの紙を置き、周りを取り囲んでいた。

「診断なんて大それたものじゃないんだけど」

 ボールペンを持ったカメ子は、台所と玄関にマルをつけた。

「この二か所は唱えた感じちょっと他と違った感じが。でも、ごめんね。高野さん。ほんとにこれは寺の感覚みたいなもので」

「うん、大丈夫。信頼してるし。ということはこっちも」

 さつきとカメ子が話しているのをショーコは目を閉じて静かに聞いていた。


「ちょっと。あんたも何か言いなさい」

 さつきは間取りの紙をショーコの前に置いた。

「え、わたしなんかが意見を・・・?」

「いいから。ちょっとは役に立ちなさいよ」

「ええと、じゃあ。今の話を聞いていて思ったのは、二人ともなかなか鋭い洞察力だなあって。台所と靴箱には同じような収納棚があるっていう共通項を見出したところとか」

「誰に言ってんだ?クズが上から目線で言うんじゃねえよ」

 カメ子は頷いているショーコの横に置いてあったリュックを蹴った。

「ひ、ひいい!あ、でもわたしも少し情報が」

 ショーコは端末を取り出して画面を見ながら、実はね、と言い軽く息を吸った。


「このマンションってさ。人が死んでるんだよね」


「そりゃそうでしょ。築四十年近く経ってるんだし。それぐらいわたしにだって」

 さつきはショーコの前に置いた間取りの紙を手に取った。

「はいはい。注目されたくて霊が見えるって言ってるやつと一緒だな。クズの中でも安いクズ。お前はその辺を自覚しろ」

「違うよ、これは確かな情報なんだよ。一階の管理人さんに聞いたんだ。このマンションのことを洗いざらい」

「はあ?管理人からの情報って。なんでそれすぐ言わないのよ!」

「だって・・・。さつきちゃん」

 端末を持つショーコの手が震えていた。 

「わたし失敗したら人形送りの刑にされるんだよ。このドローフォーは大事に使いたいんだよ、そして出すのが今!」

「なによ?そのドローフォーって」

「え・・・?さつきちゃん。ウノだよ。ほら」

「宇野?だれ、それ」

「ええと、高野さん。そういうカードゲームがあるんだ。こういうやつ」

 カメ子は自分の端末から開いたページをさつきに見せた。

「カードゲーム?知らない。なにこれ」

 さつきはカメ子の端末をスクロールしながら、画面を凝視していた。

「うーんとねえ。あ、これなら」

 ショーコは動画をさつきに見せながら、こうやってね。数字か色を合わせてね。んで、ほら、今で出たの。絵がかいてるやつ、これ色を変えれるんだけど、相手に二枚カードを山から取らせたりするのもあるんだ。と時折動画を一時停止し説明した。



「大体分かったけど。これ何が面白いの?」

 さつきはカメ子に端末を返しながら言った。

「ちょ、ちょっとさつきちゃん。それはまずいよ、問題発言だよ!このカードゲームで数百万人が熱狂してるんだから!」

「高野さん。今度やろうよ、わたしの家で。また泊まりに来てもいいし」

「うーん。確かにやってみないとわからないかも。あ、でも。それなら」

「ごめんね。さつきちゃん」

 ショーコは会話の途中で立ち上がり、窓を開けた。

「は?何よ、急に窓を」

 急に入った風に対し、さつきは反射的に髪を整えた。

 

「わかるんだよ、さつきちゃん。見えるんだよ、さつきちゃん。この後、コンビニにご飯を買いに行くついでにウノを買ってさ。んで和室でウノを三人でやって、さつきちゃんがムキになって、もう一回もう一回で結局朝までっていう」

 窓を閉めて振り返ったショーコは、

「もう、いいじゃない。そのくだり、その感じ。そんなことより、わたしたちにできることをやろうよ」

 そう言いいながら、一人何度も頷いてショーコは畳に座った。

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