ショーコ中古マンションを買う(1)
九月六日 午後四時五十分 ショーコ宅
「ねえ、さつきちゃん。マンションってどうかな?」
「どうって。何が?」
さつきはこたつテーブルで勉強、ショーコはマットレスの上で横になりタブレットを操作していた。
「あらやだあ、自分で住むならだよ。一軒家には一軒家の良さ、マンションにはマンションの良さがあると思ってさ。いろいろ見てると」
「わたしはマンションの方がいいけどね」
さつきは参考書のページをめくりながら言った。
「ほうほう、その心は?」
「住むフロアにもよるけど、ある程度の高さに行ったら虫もあんまりいなくなるし。窓から人の視線も気にしなくていいじゃない」
「え、虫っていなくなるの!?」
「うん、そう」
「なんてこった。わたし二階以上の高さの建物に住んだことないから・・・」
ショーコはタブレットを置き、立ち上がって窓を開けた。
「この虫たちがいなくなるなんて」
窓の外に手を出して振り回しながらショーコは辺りを見渡した。
「ごめん、さつきちゃん。思ったより虫いなかった・・・」
「ちょっと暑いから無駄に窓開けないで。大体ここはまた別でしょ。いな、自然が多いから、上にいってもいるかもしれないし」
「ぐ、そのまま田舎と言った方が聞き流せるのに。あえて言い直すことによってより田舎をばかにするという手法を・・・」
「気にし過ぎだって。あとは音かな。一軒家だと人の声とか、車の騒音って結構聞こえるし。あ、でもこの辺は大丈夫だけど。田舎だから静かだし」
「うう、今度は話の最後に田舎と持ってくることによって、より田舎を強調するやり方を」
ショーコはうつむきながら窓を閉めた。
「あんたが言えっていうから言ったんでしょ。どうすればいいのよ!」
「い、田舎にだってマンションあるんだよ!あんまり高層のはないけど」
「あ、でもそう言われてみれば。中学校の近くにあったような」
「ふふ、さっきいくつか目ぼしいのを見つけたんだ。これから見に行かない?」
「はあ?昨日行ったばっかりじゃない」
「一生に一度の買い物なんだよ。慎重にいろんな角度から検証するべきだと」
「検証したってどうせあんた買えないでしょ」
「昨日は宝くじ買ってなかったけど、今日放課後に一枚買ったんだよ。これで住宅購入の可能性はゼロから一に。これは大きな一歩だよ」
「いち、ってどういう基準なのよ・・・」
「ちょっと電話してみるね、昨日の不動産屋に」
ショーコは端末を操作し電話を掛けた。
さつきは電話で話しているショーコを見ていたが、あきらめたように参考書を閉じ、筆記用具と一緒に鞄にしまった。
「行けるよ、さつきちゃん。昨日の人いるって」
「はいはい。行くんでしょ、ほら用意しなさい」
「いいねえ、物件見たがりキャラ。連投でも問題ないんだねえ」
リュックにエアガン、日本酒などを詰めながらショーコは言った。
「なによ、キャラって。てかあんたその荷物」
さつきはショーコが詰めているリュックを指差したが、ため息をつき、まあいいけど。と言って玄関に向かった。
「あ、ごめん。いつもの通りまだ準備が」
「いい、先行ってるから」
「ちょ、ちょっと待ってよ。さつきちゃーん!」
ショーコはビデオカメラを抱えてさつきを追いかけた。