ショーコ中古一軒家を買う(5)
九月五日 午後七時十二分 中古住宅内
「ねえ、電気付けると周りから丸見えじゃない?」
椅子に座ったまま、さつきはリビングの窓から外を見た。
「カーテンもないしな。つーかいいのかよ。不動産屋的に売ってる家に人がいてさ」
「そうだよね。ショーコ外から見てきたら」
「うん、一応確認してくるよ」
さつきに言われたショーコは玄関から外に出て、車道から家を眺めた後、再び敷地内に入り、塀と家の僅かな隙間を通ってリビングの窓を叩き、さつきちゃん、さつきちゃんと呼びかけた。
「どうなの?」
窓を開けてさつきは言った。
「もろにもろ見えだよ。女子高生がなんかしてるのがばればれってうか。これは怒られるかも」
やばい、やばいと言いながらショーコは靴を脱いで窓から玄関に行き、ブレーカーを落とした。
「おい、真っ暗じゃねえか。全部はやりすぎだろ」
「いやあ、理恵ちゃん二階も明るかったしさ。迅速な行動が求められるかと」
「じゃあ、わたし一旦二階行って電気切ってくるから」
暗闇の中、さつきはテーブルに手を付いて立ち上がった。
「さつきちゃん。まさかこの暗い家の二階に今から一人で?それ自殺行為っていうか、ほぼ自殺だよ・・・?」
「うーん、じゃあ理恵も」
さつきは理恵の二の腕を掴んだ。
「えー、なんでだよ。さつき一人でいいだろ」
「理恵ちゃん。友達の命が掛かってるんだよ!」
「っていうかこんな感じで遊ぶんだったら、イノシシのバイト行けばよかったじゃん。同じようなことして向こうは金もらえるんだし」
「ええ、家買うのとバイトじゃあ全然違うよー」
「買わねえだろ。いや、買えないだろ!」
「ほらほら、さつきちゃん待ってるから」
さつきは理恵とショーコの話を聞きながら、端末を操作していた。
「あ、終わった?」
「さつき話が終わるの待ってたのか・・・。わかったとりあえず上に行って、電気のスイッチを全部消してくればいいんだろ」
理恵は立ち上がってさつきに言った。
「そうそう。今全部オンになってるから。二階を一旦全部オフにして、下の必要なとこだけ付けてからブレーカーを上げればいいんじゃない?そしたら外からも目立たないと思う」
さつきは端末をポケットに閉まって二階に向かって歩き出した。
「二人だけでは行かせないよ。わたしも後方から支援するから」
ショーコはリュックから日本酒を取り出した。
「酒って。それ何に使うんだよ」
「出し惜しみはしないよ、じゃぶじゃぶ使うから。なんかあったら二人共すぐ横にどいてね。後ろからパーッとやっちゃうから」
「はいはい。使うような展開にはならないけどね」
三人はさつき、理恵、ショーコの順で階段を登り二階に行った。
「正直言って怖いよ、さつきちゃん。この家、昼と夜とじゃまったく別の顔をしている・・・」
ショーコは暗闇の中、洋室の部屋の前で小刻みに震えていた。
「昼って。お前らいつからここにいんだよ」
理恵は扉を開けて部屋の中に入った。
「り、理恵ちゃん。そんな無造作に!」
ええと、この辺だろ。理恵はスイッチを探して壁に手を這わせた。
「ね、ねえ。ほんとに大丈夫なの?」
さつきとショーコは後ろから心配そうに理恵を見ていた。
「お、あった。これでオフだな。よし、次」
「早い。さすが理恵ね」
さつきは軽く手を叩きながら理恵を見た。
「すごいよ、理恵ちゃん!普通なら引っ張られるのを恐れてあんな大胆には」
「言っとくけど、お前らの普通は普通じゃないからな」
理恵は次の部屋に向かった。
「おし、これで窓がある部屋は終わったな」
三部屋のスイッチを切り、下の階に降りて行く理恵を、さつきとショーコは呆然として見ていた。
「さつきちゃん、これは想定外の事件だよ。わたしたちのピークっていうか、いつもの盛り上がっていく感じがまったくないんだけど・・・」
「いいじゃない。すぐ終わったんだし」
「だってさ、これだけの素材なんだよ、中古一軒家の二階だよ!通常ならもう一ついや、調子のいい時のわたしたちなら、もう二つ山を作れたのに!」
「しょうがないでしょ。理恵呼んだ時点でこうなる可能性だって」
「見くびっていたよ。理恵ちゃんを。でもさ、やられっぱなしは性に合わないんだ。最後の砦を理恵ちゃんにぶつけよう」
ふ、ふふふ。ショーコは笑いながら階段を降り始めた。
「あ、あんた。まさか和室を!?」
そうだよ。踊り場で振り返ってショーコは言った。
「夜の和室、そして仏壇。これはさすがにダメージ通るよ。いくら理恵ちゃんだって無事では済まないはず」
「そんなこと!」
階段を駆け下りようとするさつきを、ショーコは羽交い絞めし、
「理恵ちゃーん。最後リビングの横の部屋お願いー!」
と、さつきの口を押えながら言った。
「おおー、いいぞー」
理恵の声を聞いてショーコはにやりと笑った。