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ショーコ中古一軒家を買う(2)



九月五日 午後三時十二分 中古住宅前



「ここですね」

 不動産屋に勤める四十代店員は塀に囲まれた家の前で車を停めた。


「おお、いいじゃない!このたたずまいは只者ではない雰囲気出てる」

「なんか暗くない?」

 さつきとショーコは車から降りて家の前で立った。

「これぐらいでちょうどいいよ。こう暗めで、さらに古すぎず。あんまり古いとさあ。怖いっていうより、ぼろいが勝っちゃうんだよねえ」


 木造二階建ての一軒家は角地に建っており、隣はその家より古そうなアパート、道を挟んだ場所には四、五階建てのマンションがあるため日光が遮られて、薄暗い雰囲気がその周辺を包んでいた。


「うんうん、この何の役に立つかわからない玄関のこれ」

 ショーコは玄関に上がる階段の前にある、腰の高さ程度の茶色い柵のようなものを、上下に動かしていた。

「一応意味あるでしょ」

「鍵開けますね」

 と前にいた四十代店員が玄関のカギを開け中に入った。

「ほら、さつきちゃん。こんなところでのんびりしていたら進まないよ」

「それはあんたでしょ!」

 さつきとショーコは不動産屋に続き玄関に入った。


「ほお、なるほどなるほど」

「へえ。思ったよりきれいかも」

 玄関から入って左側に二階に続く階段があり、さつきとショーコは店員が用意した使い捨てのスリッパを履いて、一階の廊下を進んだ。


「ほうほう、この家具は?」

 ダイニングスペースに来たショーコはテーブルを軽く持ち上げて言った。

「前の家主さんのものです。必要なら使って下さいと」

「ほー、四人掛けだしねえ。結婚して家族が増えても大丈夫だよ。いいねえ、さつきちゃん」

 椅子を揺らしながら座っているショーコはさつきを見た。

「いや、家族って。住宅ローンを払う期間内で実現するのは無理ね」

 さつきはカーテンを開けてリビングからの景色を見ていた。


「五十年ローンを予定していたわたしには無理ということは、事実上家族を持てるのは現世では不可能だと・・・」

「そうでしょ。普通に」

 さつきはもらった資料を見ながら、ダイニング横のリビングスペースに移動した。


 リビングスペースはダイニングを合わせて十二畳、そしてリビング横の玄関側に六畳の和室があり、さつきは引き戸を開けて和室に入った。


 さつきは室内を見た瞬間固まり、とっさに口に手をあてたが、ひっい。と小さく悲鳴が漏れた。そしてできるだけ静かに戸を閉めた後、

「え、あのう。すいません。ここに」

 さつきは四十代店員に近づいて和室を指差した。

「え、なんですか?」

「こっちの和室に仏壇あるんですけど・・・」

「え!?まじで」

 それを聞いたショーコはリビングを通り、和室の引き戸を開けた。


 和室は薄暗いリビングとは対照的に窓から西日が入り込んでいるため明るく、畳は日焼けのためかなり劣化が見られていた。そして部屋の奥に大きな仏壇があり、中央に置いてあった写真立てが一つ倒れていた。


 さつきと同様に静かに引き戸を閉めたショーコは振り返り、

「ねえ、さつきちゃん。これはさすがに・・・。でも、いい感じに写真立てが倒れててよかったよ。もしあそこに写真が飾られてたらと思うと」

「仏壇ありの物件っていいんですか!?」

 さつきは強い口調で四十代店員に言った。

「あ、ああ。それは、まあその、いずれ処分を」

「仏壇って簡単に処分できないですよね!?魂抜きとかあるし」

「え、魂抜き!?さつきちゃん、なんなのそれ!」

「常識でしょ。引っ越すときとかも一旦魂抜きして、新しい住居に置いたときに魂入れをするし。処分するときも一回抜かないと」

「え、ええ!そ、そんな魂って簡単に出し入れできんの?」

「みんなやってるから」

 ねえ、とさつきは四十代店員を見て同意を促した。

「ああ、はい。気にされる方は呼んでますね」

「じゃあこれ捨てるにも抜かないとだめなんだあ。カメ子ちゃんできるかなあ」

「できるんじゃない?わりと基本だし」

 その後もさつきとショーコが魂入れ、抜きの話を続けていると、

「すいません、ちょっと外で待ってますので・・・」

 ゆっくり見ていただいていいので、と続け四十代店員は外に出た。


「おっし。監視がいなくなったところで、そろそろ本番やっちゃおうか」

 ショーコは座り込んでリュックの中からビデオカメラを取り出した。

「はあ?あんたそれ持って来てんの」

「うん。今日、この日、この時、全記録を収めるつもりだよ!」

「全記録って。今日もう終わりじゃない」

 さつきは玄関に移動していた。

「だからそのさ、もう一度入ってきたばっかりの体で、一階を見て周ろうよ。撮りながらさ」

「いや、それじゃねつ造じゃない」

「ふ、嘘か本当かはさほど重要じゃないよ。記録として残ったらそれが事実だから!」

「はいはい、あんた一人で周ってればいいでしょ。わたし二階見てくるから」

「さつきちゃん、お願い!一周だけだから。玄関で靴を脱ぐところから撮り始めて、一周ぐるっとするだけ!さつきちゃんは前を歩いてるだけで、顔映さないし、しゃべらなくていいから!」

 ショーコはビデオカメラを床に置き、両手を顔の前で合わせた。


「・・・なんでそこまで。じゃあ、いいけど。すぐ終わらせてよ」

「ありがてえ、ありがてえ!」

 では、最初からっと。ショーコは玄関に置いてあった靴を履き、ほら、さつきちゃんも。靴脱ぐとからだよー、と手招きした。

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