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寺に泊まる(7)

 


 九月一日 午前六時十分 本堂内



 カツン。と金属音がしてさつきは目を覚ました。


 え、なに。目を開けて体を起こすと、さい銭箱の前で手を合わせている高齢者の女性とさつきは目が合った。そしてその女性が、おはようございます。と言い笑顔を向けると、さつきは戸惑いながらも、おはようございま、す。と返した。その女性は軽く会釈をし、階段を降りて行った。


「ちょっと!誰よ、あそこ開けたの!」

 さつきは立ち上がって寝ているショーコと理恵の布団を引きはがした。

「え、うん。今何時?」

 ショーコは起きたが、理恵は反応がなく眠ったままだった。

「いるじゃない、朝から寺に来る人!」

「ああ、そんな人もいるんだねえ。まあ好き好きだからねえ」

 そう言ってショーコは再び布団に倒れ込んだ。


「あ、高野さん。起きたんだ」

 制服に着替えたカメ子がホットプレートを持って本堂に入って来た。

「うん。今、っていうかここ開いてるんだけど」

「あ、わたしが起きたときも開いてた。昨日の夜ショーコ、あ。クズが開けたんだと思う」

「やっぱり、ほんとにあのばかは。あ、それ」

 さつきはカメ子の持っているホットプレートに気付いた。

「うん、朝ご飯だよ。焼き肉」

「え、ここで?それに焼き肉って・・・」

「高野さん着替えてきたら?準備しとくから」

「あ。う、うん」

 さつきは鞄を持って住居スペースに行った。




「え、おい。なん、え!?」

 目を覚ました理恵は、目の前でホットプレートを囲んでいる三人に気付いた。

「あ、理恵。やっと起きたのね」

「理恵ちゃーん、遅いよー。何回も起こしたのに」

 はい、理恵ちゃんの分。と言ってショーコはホットプレートの焼きそばを理恵に取り分けた。

「あ、垣内さんの肉置いといたよ!」

 カメ子は焼きそばが入った紙皿を持っている理恵の前に肉を置いた。

「お前ら。朝から焼き肉って」

「いやあ、わたしも最初は違和感あったけどさ。全然いけるよ、起きて十秒で焼き肉」

「・・・わたしはちょっと。なんか水分を」

「ほい、あるよ」

 ショーコは理恵に紙コップのお茶を渡した。


 数分後、理恵が焼き肉を食べだしたときには、制服を着た三人は片付けを始めており、途中から理恵は本堂の端にホットプレートを寄せられて、縮こまって焼き肉と焼きそばを食べていた。


「こんなもんね」

 さつきは最後の布団を元の場所に戻し戻ってきた。

「ありがとう、高野さん。後はわたしやっとくよ」

「こちらこそ。あ、理恵。終わったの?」

 食べ終えた皿を重ねていた理恵は、

「お前ら、なんでこういうときだけ妙にテキパキ動くんだよ!」

 とシーツ類を集めているさつき、掃除機を掛けているショーコを順番に指差した。

「焼き肉でチャージされたからねー。ほらほら、もう七時半過ぎるよ。理恵ちゃんも準備しないと」

「あ、垣内さん。シーツ今持っていっちゃうよ。布団はそのままでいいから」

「ほんとごめん!食べたのだけは持って行くから。そんで向こうで着替えてくる」

 理恵はホットプレートと紙皿を両手で持って住居スペースに行った。



「さあて、こっちも終わったよ」

 ショーコは掃除機を止めて本堂の端にあった充電器に戻した。

「じゃあ、理恵待ってようか」

 あ、そうだ。カメ子は昨日さつきが持ってきた人形を見て、

「わたし倉庫に戻して、メルちゃん取ってくるよ」

「ごめんね。亀山さん」

 さつきはそう言った後、立ち上がったカメ子に、大丈夫?と声を掛けた。

「うん。もう朝だし」

「なんかあったら大きな声で助けを呼んでよ、カメ子ちゃん。すぐいくからさ!」

「は?格下に用はねえよ。だまって外のホースで水でも飲んでろ」

 カメ子はそう言い残し本堂を出た。


 その後、カメ子は無事にメルちゃんを回収。話し合いの結果、ショーコが持って帰ることとなり、鞄の中に入れている最中に理恵が制服に着替えて戻って来た。


「おし、じゃあ行くかー」

「うん。ちょうどいいぐらいだねえ」

 ショーコと理恵が先に本堂を出て階段を降り、さつきとカメ子が続いた。

「亀山さん、ありがとう。また連絡するね」

 さつきがそう言ったとき、カメ子は複雑な表情をし、あの、と言って立ち止まった。

「あ、さつきちゃん。カメ子ちゃんのなんか知ってるんだ。わたし知らないからいっつも亀寺の固定電話に直接掛けてたんだけど」

「え、あ・・・」

 さつきは端末を取り出して何度かスクロールした。

「おいおい、お前ら旅行行ってんのに知らないのかよー」

「え、でもさつきちゃん。そう言えば旅行先の坐禅寺でなんか知ってる風だったけど。『まだ連絡ないから近くで探してるはず』とか言ってたような」

「そ、それは。勘違いっていうか」

「あー。わかった。あれね、漫画で言うとあの時のコマが今出てて。さつきちゃんが自分のセリフをバットで殴って壊してるとこね!」

「なによ、それ。意味わかんないし」

「あー。じゃあさ。かめ、あ。ええと」

 理恵はカメ子を見て、言葉に詰まった。

「ふ、わたしは知ってたよ。理恵ちゃん、昨日からカメ子ちゃんのこと名前で呼んでないよね。なんか理由があるのかい?」

「うるさいなあ!お前らの関係が特殊すぎてなんかいいづらかったんだよ!」

「あー、たしかに。理恵言ってなかったね」

「気にしないでいいよ。垣内さん!別に無理しなくても」

「いや、いいって。普通に亀山さんでいいよね。でなんかリア垢ある?そっから」

「あ。それなら」

 カメ子は自分の端末を取り出して理恵に見せた。


「これねー、あー。うん、これ」

 理恵は画面を何度かスクロールして動きが止まり、横にいたショーコが、なんだいなんだい、と覗き込んだ。

「うーん、カメ子ちゃん。これリア垢っていうか、寺垢だよ・・・」

「え、なに?」

 さつきはショーコと逆側から端末の画面を見た。

「ほら、さつきちゃん。寺の告知っぽいのに混じって、カメ子ちゃんの日常が」

「これはちょっと絡みづらいなあ」

 理恵がそう言うと、

「直接やればいいじゃない」

 ほら、と言ってさつきが端末を操作しIDをかざした。

「え、いいの・・・?高野さん、それに垣内さんも」

 カメ子はさつきと理恵を交互に見つめた。

「うん。全然いいよ。ほら、ショーコもついでにやっとけって」

「おっけー、さつきちゃんは案外ダイレクト通信派だからねえ」

 四人はそれぞれ端末をかざして登録した。

 


 カメ子はうつむいて少し震えながら端末を操作し、全員分を丁寧に登録した。



「おっし。じゃあそろそろ行かないと」

 ショーコは自転車にまたがった。

「ショーコ。せっかくだし歩いていこう、まだ間に合うだろ。亀山さん、ここ置いといていいい?」

 理恵は自転車を指差した。

「う、うん!いいよ」

「わたしもそうする。今日の放課後取りに来るよ」

「いいねえ、じゃあ亀寺の歴史を紐解きながら学校まで」

「うるせえ!お前に語る歴史はねえ!」

 まあまあ、とさつきが二人の間に入って三人で歩きだし、少し遅れて理恵が横に並び四人は学校に向かった。



寺に泊まる   終わり

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