霊を撮るには、前からそして後ろから(7)
五月十九日 午後四時五十二分 ショーコ宅
翌日の放課後、ショーコに部屋に来るよう呼び出された理恵は、頭と左腕、左大腿部及び足首をカーゼ、包帯で処置している状態で座椅子に座っているさつきを見て立ち尽くしていた。
「な、なあ、さつき。どうしたの、それ」
理恵は特に厚くガーゼが巻かれた左足を指し、そこ、けっこういってるんじゃ・・・と不安そうな表情を浮かべる。
「ちょっとね、いろいろあって」
「今日休んだのその怪我?」
「うん、まあそんなとこ」
「で、ショーコは・・・?」
ショーコはこたつテーブルでうつ伏せになっており、時折、うう、ああ。とうめき声だけが聞こえた。
「大丈夫、すぐ戻るよ。それで」
さつきはテレビモニターのリモコンを持って、停止していた動画を再生した。
「ちょっと理恵に観て欲しいのがあってさ」
モニターには、昨日さつきが乗った自転車の後部座席カメラで録画した映像が映った。それは暗闇の中、上下左右に視界が揺れるだけの動画で、さつきは腕を組んで画面を凝視し、理恵は、え。なんだこれ?と戸惑いながら、さつきと画面を交互に見た後、さつきに圧に負けた理恵はモニターの動画に集中した。
数分後、ちょ、ちょっと。と理恵はその場に座り込み、はあはあと肩を揺らしていた。
「ん?なに」
「ご、ごめん。さつき一回これ止めて」
「うん、いいけど」
さつきは座椅子に座ってリモコンを手の中でくるくると回した後、両目をマッサージしている理恵を見て、そろそろいくね。と言って動画を再生した。
「いやだから、無理だって。酔うから!大体ぶれすぎなんだよ。何だ、この殺人映像は」
「昨日たまたま撮ったやつなんだけど、なんかおかしなものが映ってたら教えて欲しいのよ。一人で観るより効率的だから」
さつきはそう言って、うつ伏せになって動かなくなっていたショーコの頭を持ちモニターに目を向けさせた。
「うう、さつきちゃん・・・。これ気持ち悪いよ。霊映ってないよ」
「まだ三回ぐらいでしょ、どこかに映っているはずだから見つけなさい。ほら理恵も」
「いや、まじできついって。っていうかおかしなものってなんだよ!」
理恵は口を手で押さえながら言った。
あああ、もうだめだあ。わたしの脳の映像が全部これに上書きされるよおお!ショーコは視線を逸らすため大げさに天井を見上げる。
「あのさ、お前ら。これ何の為に撮ったんだ?」
「ほら、理恵ちゃんが戸惑ってるよ、さつきちゃん。おうう」
「見つからない?じゃあ、また最初から」
さつきはリモコンで動画を戻した。
「えええ、また最初からって、だ、だめ、今まさに限界突破・・・、あっ。さつきちゃん止めてっ!」
「え、どこ?」
「ちょっと戻って。うん、そっからちょっとづつ・・・、今!ここアップにしてっ。さつきちゃん。これオーブじゃない!?」
え、何だよ。オーブ?口を押えながら理恵も画面に近づいた。
「うーん、ちょっと前後を確認しないと」
「だから、オーブって」
「ほら、ここ。さっきまでなかったのに急に白いものが!」
ショーコは金網に映る白い霧のようなものを指差して言った。
さつきは画面に近づき、拡大、縮小を繰り返した後、間違いない、と呟く。
「あんたの言うとおり、これはオーブだと思う」
「やったね、さつきちゃん!わたしたちにも心霊動画撮れるんだね!」
そしてもう観なくていいんだね!ショーコはさつきに後ろから抱きついた。
「最初としてはまあまあじゃない。そして」
さつきはショーコをつき離しカメラを指差した。
「ファミレスの動画は削除しなさい」
「ぐ、仕方ない。約束は守るよ、さつきちゃん。それが霊への礼儀」
「だから!オーブってなんだよ!」
理恵はさつきとショーコの二人の肩を掴んで言った。
霊を撮るには、前からそして後ろから 終わり