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寺に泊まる(4)

 

 

 八月三十一日 午後六時二分 寺敷地内



 荷物を持ったさつきが自転車を駐輪場に停めたとき、寺の敷地内から煙が出ているのが見えた。不審に思ったさつきは辺りを見渡すと、寺の入り口にある門に『本日休業』と手書きで書かれた紙を見つけた。


 休業って。なんなの、これ。お寺に休みってあったっけ・・・。さつきがその紙を触っていると、

「さつきちゃーん、こっちこっち」

 と手を振っているショーコと理恵、カメ子が見えた。

「今行くー」

 さつきはショーコに聞こえるよう大きな声で言って寺の敷地に入った。



「ここでバーベキュー・・・?」

 本堂に上がる階段の前でさつきは立ちすくんでいた。


 ショーコ、理恵、カメ子は境内の前で簡易的な椅子に座って、炭火の上に置いた網を囲んで肉を食べており、さつきちゃんの椅子あるよ。と箸を置いたショーコが、カメ子の横にある椅子を指差した。


「あ、うん。でもあんたたち、またずいぶん楽そうな服装ね」

 黒地のカシュクールワンピースを着ていたさつきは椅子に座りながら言った。


 カメ子は巫女服、ショーコはスウェットの上にTシャツ、理恵は学校のジャージにTシャツを着ており、ショーコと理恵は首にタオルを巻いて、共に野球帽をかぶっていた。


「さつきちゃんはワンピースかー。いいねえいいねえ、夏の夕暮れに二の腕が映えるよ」

「なんかそういう服でキャラ立てしようとしてるよな、さつきは」

 理恵は新しい肉を焼きながら言った。


「別に楽だから着てるだけだし。でも亀山さん、こんな本堂の前でしていいの?」

「あ、高野さん。心配しなくていいよ。正面の石畳のところあるでしょ。あそこが神様みたいなのが通る道なんだ。あそこだけ開けておけば大丈夫。せっかくだし、どうせやるならいい場所でって思って」

「いい場所って・・・」

 さつきは下から階段を見上げると賽銭箱が目に入った。


「あ、そうだ。お金、これいくら払えばいい?」

「垣内さんとゴミに言ったんだけどお金はいいから。それでなんか気になるならお賽銭みたいな感じで少し賽銭箱に入れてくれれば」

「え、それでいいの?」

「そうそう。いやー、五円で焼き肉食べ放題だよー。ありがてえ、ありがてえ」

 ショーコは網の上の肉を二枚同時に取って食べた。

「おい!それわたしが」

「ほらほら。理恵ちゃん、怒らない怒らない。まだいっぱいあるんだから」

 ショーコは横に置かれていた組み立て式のテーブルにある肉をトングで掴んで網の上に置いた。


「・・・とりあえずお金入れてくる」

 さつきは鞄の中から財布を取り出して、階段を登り千円札を入れて戻って来た。

「さ、さつきちゃん!見てたよ、千円入れてた!」

「いや、夕食用意してもらってるし」

 さつきは紙コップにお茶を注いだ。

「わたしも千円入れといたぞ。お前だけだ、ショーコ」

「おいおい、ここに偽善者が二人も。どうする?カメ子ちゃん」

「このクズが・・・。が、もうお前に構ってる暇はねえんだ」

 カメ子はさつきの前に肉を置いた。

「高野さん、どんどん食べてね」

「あ、ありがとう」

 さつきは肉の上に塩と胡椒をかけた。


「さつきちゃん。焼き肉のたれあるよ」

 ショーコはビンを持ってさつきに差し出した。

「ああ、ごめん。使わないから。亀山さん、これいいお肉でしょ?」

 さつきは肉をひっくり返した。

「わかる?うちにあったんだ。冷凍なんだけど」

「わかるよ。まあ」

 さつきはたれを付けているショーコと理恵を見た。

「肉にわけのわからないものをつけて、全部つぶしてしまうのが好きな人もいるみたいだけど」


「え?理恵ちゃん、わたしたち遠回しにばかにされてる・・・?」

「遠回しじゃねえよ!直接ばかにされてるよ!」

「いや、いいのよ。好きに食べるのが一番だから」

 さつきは肉を皿に取って食べ、うん、やっぱりおいしい。と言った。

「よかった。高野さん」

 カメ子は自分の皿に乗った肉にゴリゴリと胡椒をかけ食べた。

「あ、それもあるんだ」

「うん、ちょっと粗目なんだけど」

 さつきとカメ子は胡椒の話をしばらく続けた。


「おい、ショーコ。わたしたちって・・・」

 理恵はたれが付いた肉が入っている皿をテーブルに置いた。

「なんだろう。野蛮人的な扱いを受けているような気が、うう」

 ショーコは肉をたれに付けて食べ、おいしいよ?これと言った。

「あ、そうだ。ショーコ、メルちゃん持ってきた?」

「うん、持ってきたよー」

「ちょっと出してもらっていい」

「ほいさー」

 ショーコは鞄からメルちゃんを取り出して、飲み物、皿、肉が乗っているテーブルに置いた。

「亀山さん。人形がある倉庫ってどの辺?」

「うんと、裏側かな」

「メルちゃんをさ、一時的にそこに入れてきていい?」

「それならわたし行ってくるから!」

「あ、ごめん。なんか」

 カメ子はメルちゃんを持って寺の裏側に走って行った。


「なんだい、さつきちゃん。そのデザートを冷やしとく的なメルちゃんの使い方は」

「夜倉庫入るんでしょ。その時にメルちゃん持っていくから」

 さつきは胡椒をかけながら言った。

「あ!先に人形倉庫の中に入れて置くことによって、メルちゃんを仲間だと思わせるんだね!」

「はあ?なんだそれ?」

 理恵は肉を裏返しながらカメ子が走って行った方向を見た。

「ほら、あれだよ。理恵ちゃん。うーんと、ゾンビの群れに入るときにね、他のゾンビの血とかを体中に付けていれば、周りに馴染んでばれないっていう」

 さつきは無言で肉を食べ、お茶を飲んだ。

「だから、それが?」

「数時間倉庫に入れたメルちゃんを、倉庫に入る寸前に一旦取り出してだね。そんでさつきちゃんが入るときにメルちゃんを持ってたら、他の人形に攻撃されないっていうことだよ。さすが、さつきちゃん!」

「まあ、そんなとこだけど」

「あー、うん。いつものやつね。おっけーおっけー。わからないことがわかった」

 理恵はウインナーを三本網の上に置いた。


「おお、ウインナーもおいしそうだねえ!」

「あのさ。最初からこれだけだったの?」

 さつきは飲み物、肉、ウインナー、コロッケが置かれているテーブルの上を見た。


「うん、そうだよ。食べ物は肉とウインナーとコロッケのみ。すごいよね、野菜ゼロの逆精進料理だよ。さすが亀寺だねえ、常識にとらわれないっていうか」

「わたしは全然いいよ。ただコロッケを食べるタイミングがわからねー」

 理恵はウインナーをひっくり返した。

「うーん、あれじゃない。カメ子ちゃん的にはおにぎりみたいにさ。こう肉を箸で食べて左手でコロッケを持ってというイメージじゃないかなあ」

「さすがにそれはないでしょ」

 さつきはコロッケを一つ取って食べた。


 その後、戻ってきたカメ子を含めて食事を続けていると、

「ねえ、カメ子ちゃん。コロッケってどうやって食べるの?」

 とショーコはカメ子に訊いた。

「うるせえなあ、好きに食えばいいだろ!」

「ちなみにカメ子ちゃんのおすすめを教えてもらえれば、と」

「ああ?こうだろ」

 カメ子はコロッケを二個持って、ウインナーを挟んで食べた。


「ほ、ほう。コロッケはパン扱いなんだね」

「寺はいろいろ用事があって忙しいんだ。こうやったら一気にカロリー摂れるからな」

「これがいわゆる寺メシかあ。いいもんみたね。さつきちゃんもやってみようよ!」

 さつきは食べているカメ子を見て、

「いや、わたしはもうお腹いっぱいだから。理恵は?」

「うーん、わたしもきつい、かな」

「じゃあ、カメ子ちゃん。わたしの夜食にもらっていいかな?」

「どうせ余ってるんだし、ゴミが食べるのもゴミにするのも一緒だからな」

 ありがてえ、ありがてえ。ショーコは残っていたコロッケにウインナーを挟んでラップに来るんだ。


「おし、暗くなってきたしそろそろ終わるか」

 理恵はコップをテーブルに置いて立ち上がった。

「そうね、もう見えなくなってきてるし」

 さつきも箸を置き残っていたお茶を紙コップに入れた。


 日が落ちた敷地内は炭火の明かりと、近くにあるショッピングセンター『ビイオ』の照明が入り交じり、かろうじて周りが見える程度の明るさはあった。

 片付けはカメ子の指示で賽銭を入れていないショーコが担当し、さつきと理恵は先に本堂に戻ることとなった。


「さつきちゃん、ビイオがあってよかったよ。なんとか見える程度の明るさだもん。商品だけじゃなくて光もくれるなんて」

 ショーコはありがとう、ありがとう。と言いながら片付けを始めた。


「わたし準備があるから一旦家に戻ってる」

 カメ子はそう言った後、おい、ゴミ。ちゃんとゴミ集めとけよ。とショーコを睨みつけ、住宅スペースに戻った。


「じゃあ、わたしたちも先戻ってるから」

「火は消えてるけど炭は気をつけろよー」

 さつきと理恵はテーブルと椅子を畳んで倉庫に持って行き、そのまま本堂に戻った。

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