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イルミネーション工作(7)



 八月二十日 午後六時時十二分 アパート裏側



「大体こんなところね」

 さつきはメジャーを地面に置いた。

「やっと終わったか。最後のチェック厳しすぎるんだよ」

 理恵はその場に座り込んで言った。

「お疲れー。まあイルミネーション部隊のわたしは、ほぼ休憩だけだったという」

「じゃあ暗くなる前にショーコ。わたしこっち持つから」

 さつきはショーコが持っていた電球が取り付けられた紐の端を掴んだ。

「おうらい、やっと仕事だよ!どんどん巻いていくよ!」


「あ、でも高さ合わせないと」

 さつきが再びメジャーを持つと、

「おいおい、さつき。またそれをやってたら夜になるぞ!」

「うんうん。とりあえず巻いちゃおうよ。微調整はまたできるし」

 そして理恵はショーコを見て、

「おい、ショーコ。メジャーをさつきから取り上げろ!永遠に終わらないから」

 と両手を使ってアピールした。

「あいさー!」

 理恵からの指令を聞く前に動き始めていたショーコは、素早くさつきの手からメジャーを奪い取った。


「はいはい、じゃあ今はいいけど」

「ごめんね、しばらく油断はしないよ」

 ショーコはメジャーをポケットにしまい込み、服の上から両手で押さえつけている。

「どっちみちずれてたら後で直すからね!」

「おお怖い怖い。巻いてしまおう、巻いてしまおうと言いました」

 ショーコは自分が持っていた端の部分を棒に縛りながら言った。


「おし、終わった。さつきちゃんが巻いている間に理恵ちゃん。逆もやっちゃおう」

「わかった。さっさと終わらそう」

 理恵は立ち上がり地面に置いていた二本目の電球が付いた紐を持って、端をショーコに渡した。



「よし、終わったな」

 理恵は両手に付いた土を払った。

「いやあ、この異形型の棒いいよ。こう、ねじみたいなぐるぐるした部分がすごくいい。安いし、巻きやすい!」

 さつきは両手を組んで、稲とその周りを囲むペットボトル、棒、電球が付いた紐を眺めていたが、ふと思いついたように、

「今思ったんだけど。電源どうするの?」

 と言ってショーコを見た。

「あ・・・。え?」

 ショーコは理恵を見た。

「おい。こっち見るなよ!」

 理恵はショーコから目を逸らした。

「ごめん、流れで。それは考えてなかったよ、さつきちゃん」

「まあその辺はおいおい考えればだな。大分暗くなってきたし、そろそろ」

 そう言いながら帰ろうとする理恵をショーコが引き留めた。


「毒を食らわば理恵まで。ってさつきちゃんが」

「ちょっと!そんなこと言ってないし」

「ええ、もういいだろ。うーんとそうだな」

 理恵は二階にあるショーコの部屋を見た。

「二パターンしかないだろ。ショーコの部屋の窓から延長コードで伸ばすか、部屋のドアから。あ、そうだ。ショーコの部屋郵便受けドアに付いてたよな。そっから伸ばすか」

「まあ、そうなるよね。ショーコどっちがいい?」

 理恵と同じように二階を見ていたさつきは、視線をショーコに向けた。

「え、いやそれは海で溺れるか、プールで溺れるか選ばしてやる的なね。どっちもその、きついっていうか・・・」

「あ、でも」

 さつきは口に手を当てて考えながら、

「窓からだと延長コード少なくて済むし。それに透明のテープで窓をふさげばいいじゃない。逆から窓開けられるし」

「ああ、そうだな。そのほうがいいかもな」

 理恵はさつきの案に頷いた。

「いや、ごめん。溺れるなら銃で楽に。っていう選択肢が増えたぐらいの感じなんだけど・・・」

「とりあえず延長コードあるか見てくる」

 さつきはそう言ってショーコの部屋に向かった。


「なんてこった、うう」

 ショーコはその場で膝をついた。

「なあ、ショーコ」

 理恵は座り込んでショーコに目線を合わせた。

「きっかけはわからないけど、お前が言いだしたんだろ?」

「そ、そうだよ!でも、でもこんな結果想像できないよ!ただ、わたしは稲を少し倒してミステリーサークルを作りたかっただけなんだよ。それが」

 ショーコは震えながら稲を見た。

「おい、この小さい田んぼはそれ目的なのかよ!」

「そしたら、ミステリーサークルは倒すものではない、倒されてできるものだ。っていう流れになり、それで結局UFOが必要にっててなって。目立ったほうが来るだろうっていうことで。今の状況に」

「なるほどな・・・。想像はつく。だがな」

 理恵は正面からショーコを見た。

「みんなそう言うんだよ。こんなはずじゃなかった、こんなことになるとは思わなかったってな」

 そしてショーコの肩を叩いて言った。

「今こうなってる。それがすべてだ」


「ちょっと。コード降ろすから受け取って」

 声を聞いた理恵が振り向くと、さつきが窓から顔を出してコードを垂らしていた。

「おー、いまいくわー」

 理恵は窓の下に行きコードを受け取った。


「それにさ」

 理恵はさつきから受け取った延長コードを片手に持ち、電球のコードを探した。

「おまえだって、望んでるんだろ?さつきから得られる刺激を」

「ぐ、それは認めるよ、理恵ちゃん。ほんと毎回すごくて」

 でも。ショーコはさつきがいる二階を見つめて続けた。

「でもこんなことずっと続かない感もあってさ。それがね、またなんというか」

「ふーん、おまえもそんなこと考えてんだ」

 そう言って理恵はコードを持ってショーコの田んぼに向かった。



「あー、だめだ。全然見えない。なんかで照らしてくれ」

 暗がりの中、棒にイルミネーションの電球を巻き付けていた理恵は、ショーコに向かって言った。

「大分暗くなってきたからねえ。では自転車のライトを使おう」

 ショーコはイルミネーションを平行にする作業を中断して、駐輪場から持ってきた自転車を設置し、ペダルを手で回してライトを付けた。

「おお、あったあった。それで、ここをっと。お、点いた」

 

 理恵が電源を入れると稲の周りが、赤、薄紫、白の電球がきらきらと光った。

 

「すごい。こっから見たら結構きれいだよ」

 二階の窓からイルミネーションを見ていたさつきは、興奮気味に言った。

 

 稲の周りのイルミネーションは薄暗くなってきた田んぼに囲まれた周りを不自然な明るさで照らしており、ショーコと理恵も一瞬目を奪われた。


「いやー、夏っぽいねえ。こりゃいいわい」

「別に夏っぽくはないだろ」

「ほら、理恵ちゃん。刺さってるペットボトルがいい味だしてるよねえ。隠し味的に反射を」

「反射してるか?これ」

 理恵とショーコはしばらくイルミネーションを見ていた。



「じゃあ、わたし帰るから」

 二階から鞄を持って降りてきたさつきは二人に、そう言って自転車にまたがった。

「お、ちょっと待って。途中まで一緒に行こう」

 鞄取ってくる。と言い理恵はショーコの部屋に戻った。


「いいもん見れたよ、さつきちゃん。プライスありだけど思い出だよ!」

「取りあえずしばらく毎日点けとけば。夜になってからでいいから」

 さつきはハンドルの上で頬杖をついていた。

「え?ま、毎日?それはちょっと」

「うーん。毎日が難しければせめて週末ぐらいは」

「それはUFOも週末になると外出するから来やすくなるとか、そういう理由・・・?」

「変わらないと思うけど、一応そのほうがいいんじゃない?」

「ふ、さすがさつきちゃん。相変わらずすごいね。じゃあええと明日から」

「え?今日金曜でしょ。今日の夜からにすればいいじゃない」

「せ、せめて。せめて土日に。よく見てなかったから、まだ電気代が未知数で」

「今日ぐらい点ければいいじゃない。次は土日にして」

「しかたあるまい。めでたい日だから今日だけ!今日だけだよ!」


「ういー、行けるぞー」

 鞄を持った理恵が後ろから声を掛けた。

「理恵来た、じゃあね」

 今行くー。理恵にそう言いさつきは自転車を押して行った。



 理恵とさつきが見えなくなってから部屋に戻ったショーコは、パソコン、テレビなどの主電源が落ちていることに違和感を覚えて、室内を調べると、部屋で使用していた延長コードがすべてなくなっていることに気付いた。


 よろよろと歩き窓際に移動し、部屋から窓の外に伸びていた見覚えがある延長コードを見た瞬間、ショーコはテレビのリモコンを持ったままその場に座り込んだ。



 イルミネーション工作   終わり

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