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イルミネーション工作(6)

 


八月二十一日 午後五時十分 アパート裏側




「おし、大体入ったな」

 一本目の棒を入れ理恵は汗を拭った。


 アパートに戻った三人は、作業をどうするか話し合った結果、さつきと理恵が棒を入れ、ショーコがホームイルミネーションを取り付けられる状態に配線を繋ぐこととなった。

 さつきと理恵は棒を打つためのものを探すため、アパート周辺を歩いていると、さつきが敷地内でコンクリートブロックを見つけ、話し合いの結果、それを使って理恵が棒を地面に打ち付け、さつきがそれを支えることとなった。


「この感じで行けばすぐね。あとショーコ、メジャーとかない?」

 一旦棒を離してさつきは座り込んで作業しているショーコに言った。

「ふっふ、なぜかあるんだよねえ。うちには」

「それと紐とハサミを」

「うん、あるよ!数々の戦いのくぐりぬけた、あのビニール紐が!」

「ああ、プールと動画の紐ね。それもお願い」

「おっけえ」

 ショーコ小走りで二階の部屋に戻った。


「次どの辺に入れる?」

 理恵は立てかけていた棒を持ってきた。

「この田んぼ。中途半端な正方形っていうか」

 さつきは腕を組んで、ペットボトルに囲まれた田んぼを見ながら言った。

「ああ、確かになあ」

「どうしようかなって。目安とか」

「うーん、でもこんなもんある程度適当に」

 さつきと理恵が話していると、

「やあやあ、持ってきたよ!」

 メジャーと紐、そして五百のペットボトルを持ったショーコが走って来た。


「おお、コーラか。ちょうどのど乾いてた」

「うんうん。これは理恵ちゃん用だよ」

 そして、はい。とショーコはさつきにメジャーと紐を渡した。

「またこの紐、か・・・。うん、ありがとう」

 さつきはメジャーを使って理恵が差した棒の近くのポイントを、いくつか計測していた。

「ああ、そっか。一旦三角形を作ってね。ピタゴラスのやつか。それを使ってきれいな四角形をっていう」

 理恵はショーコの横に座った。

「うん、そう。あ・・・」

「ん、これなんか?」 

 理恵はキャップを外したペットボトルを凝視していた。

「す、すごい。よくわからないけど定理的なものを実際に使うとき・・・。あ」

 理恵がキャップを外し、口にあてるとさつきとショーコは固まって理恵を見た。


「おい、何だよお前ら。あ、これなんか入ってんのか!キャップ一回開けてる感じしたし」

「いや、そういうことじゃ」

 ええと、ここが百二十・・・。さつきはメジャーの数字を確認した。

「う、うん。大丈夫大丈夫。心配ないから」

「心配ないってなんだよ、おかしいだろ!」

 理恵は一度ペットボトルの蓋を閉めた。

「ええと、理恵ちゃん。それはね」


 ショーコは理恵にそのコーラが出来た経緯を話した。


「ああ、まあそれなら別にな。わざわざ熱湯消毒もしてるんだし」

 理恵は再び蓋を開けて、ペットボトルのコーラを飲んだ。

「うんうん。わたしもがんがん飲む予定さ」

「さつき、ポイント分かった?」

「とりあえず目安としてこの辺を」

 理恵はさつきが指したポイントにブロックと棒を持って行った。


「ちょっとショーコ、なんで熱湯消毒なんて嘘を!」

 さつきはショーコに近寄って小声で言った。

「く、口が滑って。悪気はなんだよ」

「理恵信じちゃってるじゃないの、もう」

「嘘も方便、いや嘘から出たまこと?」

「いや単純な嘘でしょ!」

おおい、さつきー。これもうやっていいのか?理恵は棒を持ってさつきを見ていた。

「ごめん、今行く。ショーコ、ごめん棒持って。わたし測るから」

「おいさあ」


 さつきはメジャーで一本目と二本目の距離を測った後、二本目を埋めるポイントを示し、ショーコが棒を押さえて、理恵が打ちつけた。

「本当はもっとちゃんとしたやり方あると思うんだけど」

「うん、まあ大体でいいよ。さつきちゃん」

「さつき、次どうする?」

「ねえ。どっちか携帯ある?わたし鞄に入れてきちゃって」

 さつきは理恵とショーコを見て言った。

「ないなあ。わたしの上で充電してるよ」

「鞄に入れてるわー。なんか使うのか?」

「ああ、ごめん。じゃあ」

 さつきは足で地面を何度か払って綺麗にし、そこに落ちていた石を使って数式を書き始めた。


「ひい!さつきちゃんがまじぽんだよ。地面でなんか解こうとしてる!」  

「斜辺の長さ分かっといた方がいいでしょ。そのために測ってたんだから」

 さつきは計算した数字を大きく地面に書き、紐をメジャーで測って、計算した長さで切った。

「これで斜辺は測れる。あ、ショーコ、ちょっとこっちきて」

 さつきは紐を持って二本目に打った場所に行き、ショーコを呼んだ。

「さつきちゃん。わたしには今さつきちゃんが何をしているのか、さっぱりわからないよ・・・」

「きれいな四角形をつくるために、まずはピタゴラスの定理を使って三角形を作ってるんじゃない。中学でやったやつだし、なんでわからないのよ」

「え、嘘でしょ。知らないよ、そんなの」

「三平方の定理で覚えたの?」

「いや、そっちもさっぱり。なんで四角形作るのに理屈がいるの?」

「だからあ」

 さつきはショーコを見て続けた。


 一本目と二本目を繋いだ辺をA、一本目と九十度になる角度で、この場合だと理恵が立ってる位置を三本目として、一本目と三本目の辺をBとするでしょ。その距離はさっき測ってるから。そしたら二本目と三本目を繋ぐ辺をCとすると、その長さはわかるでしょ?別に三本目も距離決めてやればいいんだけど、どうしても斜めとかになってずれちゃうから、CとB長さをきちんととってやればある程度ポイントが正確になるんじゃないかなって。だから次の四本目も同じように一本目と二本目と四本目で三角形を作って、一本目から四本目までの斜辺をさっきの紐で同じようにやればある程度・・・。


「あの、さつきちゃん。話の途中だけどもう大分前から見失って、うう」

 ショーコはさつきにごめんね、と言いながら両手を合わせ謝った。

「うーん、ただメジャーあるからそこまで必要かっていう気もするけどな・・・」

 理恵はぼそっと呟いた。

「メジャーじゃ斜辺のとこ稲がじゃまでやりづらいじゃない?」

「うん、まあそうなんだけど一本目と二本目がきちんと取れてれば」

 いや、でもさ。さつきは理恵に説明し、最終的には一本目の位置に理恵、二本目の位置にショーコがそれぞれ紐を持って立ち、さつきがその二本の紐を合わせて三本目の地点を計測することとなった。


「三本目はこの辺で」

 さつきは小さな穴を掘って場所が分かるようにし、

「四本目も同じように測るから、理恵とショーコは紐を入れ替えて」

 理恵とショーコは返事をして、紐を入れ替えた。


「理恵ちゃん。さつきちゃんがどんどん先に進んでて、わたしはもうさつきちゃんの背中も見えないよ・・・」

 ショーコは横にいる理恵に言った。

「まあもう終わるから。しかしさつき、建物でも作るのかってぐらいまじだな」

 理恵とショーコは真剣にポイントを計測しているさつきを、紐を持ちながら見ていた。

 

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