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イルミネーション工作(5)

 


 八月二十一日 午後四時 アパート裏側



「なあ、今度はお前ら何をするつもりなんだ・・・?」

 翌日、ショーコのアパートの裏に呼び出されていた理恵は、ペットボトルに囲まれた稲を見て言った。


「やあやあ、よく来たねえ。見ての通りだよ、理恵ちゃん。それで協力をお願いしたいと」

 さつきと二人でペットボトルの位置を調整していたショーコは、作業を中断して理恵に言った。

「協力って言われてもなあ。見ての通りの意味もわかんねーし。大体なんだよ、この小さい田んぼと周りのペットボトルは」

「おお、いいねえ。がんがんくるねえ。ほら例えて言ってもいいんだよ、なんだこのペットボトル、単三電池みたいに使うな!とかさあ」

「ああ、上下逆だからか?しかしショーコ、その聞き方は一番卑怯なやりかただろ。自分のはあくまで例題だし、面白くなくて当然だから。次はこれより面白いです、って」

「ふ、さすが理恵ちゃん。危機管理はばっちりだね。ほら、さつきちゃんも言ってもいいんだよ。この状況を面白おかしく!」


 腕を組んで田んぼを見ていたさつきは、一瞬ショーコを見た後、

「これさ目立たせたいんだけど。どうすればいいかな」

 と理恵に視線を移した。

「目立たせるって。この小さい田んぼを?」

「うん、そう」

「そうだなあ。ここを目立たせるねえ」

 さつきと理恵は稲の周りを歩いた。

「ぐ、完全無視。一番効果的な方法を・・・。すまない、罪を認めるから。ごめんよお」

 ショーコは謝りながら二人に駆け寄った。



「うーん、これを目立たせるなら鉄の棒を四隅に打って、電球付いた紐みたいなので巻く。みたいなのがいいんじゃないか?」

 稲から少し離れた場所に立って見ていた理恵は言った。

「ああ、やっぱりそう?わたしもそれは考えてた」

「なるほどねえ。確かにそれは目立つ」

 うんうん、とショーコは頷いた。

「んじゃ、どうする?買いに行くか。ファミレスの横にホームセンターみたいなのあったよな」

「おお、いいねえ理恵ちゃん。初めての目立つ稲だよ!」

「そうね、じゃあその方向で」

 さつきと理恵はショーコの部屋に荷物を置き、自転車でホームセンターに向かった。



「ねえ、これ。単なる鉄の棒が二千円するんだけど・・・」

 ホームセンターに入り、まずは鉄の棒をと探していた三人は商品のコーナーの前で選んでおり、ショーコは目に付いた棒を手に持って、高い、高すぎる、ぶつぶつと言いながら震えていた。

「埋めることを考えると、ある程度の長さは必要だからな。その辺になるんじゃないか」

 理恵は棒を一本持って重さを確かめて戻した。

「あ、理恵見て。こっちの安いよ」

「おお!安い!?今一番聞きたい言葉だよ!」

 ショーコはさつきが指差した商品を見た。


「なんだこれ。異形型って?」

 商品名を見ながら理恵は棒を手に持った。

「どの辺が異形なのかわからないけど」

「確かに安いよ、さつきちゃん!一本九百円。そして異形という名前もいい!これ以外もう見えないよ、わたしは」

 ショーコは理恵が持っている棒を強く握った。

「ああ、これあれだ。ねじみたいに、らせん型になってるんだな。棒自体が。この辺が異形なのか?」

「うーん。でもこの形でもいいよね」

「いいよいいよ。さつきちゃん。これにしよう、これにしようと言いました」。  ショーコは棒を持ったまま、何度も強くうなずいた。

 じゃあこれ四本ね。理恵が確かめるように言ってその場を離れようとしたとき、ショーコは理恵の腕を掴んだ。

「ねえ、理恵ちゃん。これ持って行かないの?」

「重いし、光るやつ見つけてからまとめて持っていけばいいじゃん」

「でもさ。いきなり大量に異形が必要な人が来て全部売れないかな?もうこれじゃないとわたし」

「いや、ないだろ・・・」

「まず普通から売れるでしょ。いきなり異形だけが全部なくなるわけないじゃない」

「うん、ごめん。そうだよね、少しわたしも取り乱したみたい」

 ショーコは胸に手をあててゆっくり息を吸った。

「おっし。じゃあ次は光るやつ探すか」

 

 三人は店内を周りホームイルミネーションコーナーを見つけた。

 

「ふーん。こういう感じなのね」

 さつきは電球等が一式入っている箱を手に取った。

「ショーコの小さい田んぼ、幅一メートルぐらいだろ?」

「そうそう。とりあえず巻ける長さがあればいいから。最優先は価格で」

 ショーコはすべての商品の値段を確認するため、列の端からゆっくりと棚を見ていた。

「でも目的は目立つためなんだよあ、単色はまずいか」

 こういうのとか。理恵はオレンジ色の光のみの商品をさつきに見せた。

「あ、それはわたしも思う」

「ほうほう、それ値段は違うの?」

 少し離れた場所で商品を見ていたショーコは言った。

「いや一緒」

 理恵がそう言うと、

「そりゃあ、そうだよ!単色なんて稲なめんなって話だし、やっぱりがんがん色使ってるほうがいいに決まってるよ!」

「急に強気になって。結局値段じゃない」

 さつきは見ていた商品を棚に戻した。


 その後、三人で何度も話し合った結果、異形型の鉄の棒四本と、四色が点滅するホームイルミネーションセットを二つを購入した。



「おい、なんで料金三等分なんだよ!」

 ホームセンターの駐輪場で、財布に現金をしまいながら理恵は言った。

「まあまあ。理恵は道連れ世は情け、ってさつきちゃんも言ってるし」

「はあ!?なにそれ。言ってないし」

「理恵ちゃんもさ、うちに来た時見れるし。ちょうどいいんじゃないかな」

「いや、何もちょうどよくないだろ!今回だけだからな!」

「ありがてえ、ありがてえ。で、どうする。棒どうやって持って帰る?」

「そうね、これはちょっと。この異形の棒長さ百八十だし。自転車じゃ無理かも」

「大丈夫だよ、さつきちゃん。こうハンドルから両手を離して棒を持って自転車乗ればさ。わたし二本持つから、あとは二人で分けてくれれば」

 こんな感じでさ。ショーコは棒を横にし、両手で持ってすたすたと歩いた。

「ああ、雑技団的なやつか。ショーコが四本持つなら別にいいけどな」

 理恵は持っていた棒をショーコに渡した。

「いやあ、これはみんなでやらないとさ。三人縦一列で並んで棒持って自転車乗ってたら目立つよ。稲で目立つ前に軽く目立っといてもいいんじゃない?」

「ばかじゃないの!わたしたちが目立ってどうすんのよ!」

「普通にさ。ショーコの自転車置いていけばいいだろ。明日取りにくれば」

 理恵は自分の自転車のカゴにイルミネーションセットを入れた。

「うん。わたしと理恵は帰らないといけないから。とりあえず」

 これはわたしが持つから。さつきはショーコが持っていたイルミネーションセットをカゴに入れた。


「え、ちょっと。じゃあわたしがこれを四本・・・」

「そんなに重くないし、わたしとさつきも自転車押して行くから交代したらいいだろ」

「ありがてえ。てっきりわたしは二人で先に帰って、なんかおいしいものでもつまんでるんじゃないかと・・・」

「なにそれ。大体あんたんちにそんなものないでしょ」

 さつきは自転車の鍵を開けた。

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