イルミネーション工作(4)
八月二十日 午後十二時三十五分 ショーコ宅
「今日はバイトいらないみたいだねえ」
電話を切った後ショーコは端末をテーブルに置いた。
「そっか、しょうがないね」
「二十四日お願いしたいみたいなこと言ってたけど。さつきちゃんどう?」
「うーん、その日は多分」
座椅子に座っていたさつきは端末の画面を触りながら、ごめん、やっぱり無理と答えた。
「さつきちゃんはハードに生きてるもんねえ。じゃあわたしソロで行ってこようかな」
「え?一人でいいの」
「うん、実績が評価されてね。リーダーになら任せても大丈夫と。ふっふ、これは事実上の昇進だよ」
「よかったじゃない。大分やりやすくなるでしょ」
「うんうん、予定が立てやすくなるよ。あとはあそこにWi-Fi環境があれば」
「それは無理でしょ。じゃあ、今日はとりあえず出来るところまで」
さつきは端末を閉じ立ち上がった。
「よっし、埋めよう埋めよう!」
「あ、そういえばあんたんち傘ある?」
「ああ、紫外線対策?ごめん、うち傘自体ないんだ。雨も対策できてないよ」
「はあ?じゃあどうすんのよ、雨降ってたら」
「外に出ない、ね。単純に」
「・・・うらやましいね、なりたくないけど」
そう言ってさつきは玄関に向かった。
「え、それ。なに?どっち!?」
慌ててショーコはさつきを追いかけた。
「ねえ、それ上下逆じゃない?」
ある程度穴を掘る作業を終えた二人は、ペットボトルを埋め始めており、さつきは下四分の一程度を何本か埋めていた。
「え?こっちのほうがよくない」
ショーコは上四分の一程度を土に埋めていたため、さつきとは上下が逆になっていた。
「いや安定しないでしょ、それは」
「もう戻れないし、やってみようじゃないか。安定だけが人生じゃないよ」
「あんたはいいかもしれないけど、わたしは安定したい」
さつきとショーコは作業を続け、すべてのペットボトルを埋めた。
「ねえ、さつきちゃん。これさ」
統一感なく上下が逆になっているペットボトルで小さな田んぼが囲まれており、さつきとショーコは少し離れた場所でそれを眺めていた。
「なに」
「なんかグロテスクだね・・・」
「だからあんたが上を埋めるから」
「ええー、上埋めたほうが安定感が、って忘れてた!状況に流されまくって埋めたけど。さつきちゃん、これの目的って?」
「ん?目立つためよ」
「目立つって何に?」
「そりゃあ、ほら」
UFOとかに・・・。さつきは小声で言った。
「これで!?バイトのお金でなんかするんじゃ」
「だから、これは前段階だし!また明日やってそれで完成するから」
「でもよかった。なんとなく全貌が見えてきたよ」
なるほどなるほど。ショーコは頷きながら言った。
「わたし今日はもう行くから。明日夕方に理恵と来る」
「おっけえ、おっけえ。理恵ちゃんには、喉を限界まで渇かせておいてと伝えておいてよ」
「ああ、コーラね。まあ一応言っとくけど」
「カメ子ちゃんどうする?」
「亀山さん八月はお寺の用事で、日中はずっと忙しいっていってたし」
「寺の用事ならしょうがないよねえ。でも逆に夜ならいけるということ。夏休みあと十日あるし、カメ子ちゃんの力が必要になる事件も起こりそうだよね」
「起こるっていうか、起こしてるのあんたでしょ」
「うん、否定はしないけど。結局さつきちゃんが・・・」
「はいはい、そう言ってればいいよ」
鞄はあらかじめだれでも自転車のカゴに入れて置いたので、さつきはじゃあ、また。と言って駅に向かった。