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イルミネーション工作(3)


 

八月二十日 午後十一時五十分 銀ビル(スーパー)内



「ねえ、さつきちゃん。何本コーラ買う気なの・・・」

 ショーコは店に入った瞬間、カートの上下にカゴを設置し店内をうろうろしているさつきに声を掛けた。


「さすがに自転車でも運べる量に限度はあると思うから、ある程度は」

 あ、と声を出し飲料水コーナーを見つけたさつきは、カートの向きを変えた。

「うんうん、よかったよ。その辺が分かってくれているだけで」

「持って帰れなかったら意味ないじゃない」

 さつきは冷蔵のコーナーにあったコーラを適当にカゴに入れ出した。

「ちょ、ちょっとさつきちゃん!コーラにも種類が」

「は?あんたこの前、ききコーラ外しまくってたじゃない。全問正解理恵だけだったし」

「さつきちゃん、人は見た目で恋をするんだよ。ね、ほらあの燃えるような赤いパッケージの色に」

「冷えてないのだけど。それなら赤いのある」

「いいじゃない、たまには違うので勉強すれば」

 カートの上下に置いたカゴ一杯に様々な種類のコーラを入れ、さつきはレジに向かい、合計十七本の一・五リットルのコーラを買った。

 

 さつきとショーコはコーラをビニール袋四つに分け、自転車のハンドルに掛け駐車場で少し自転車に乗ってみたが、ビニール袋の重さから車体がふらついて安定せず、ショーコの提案で二人は自転車を押してアパートに戻った。


「並べてみるとこれはかなりのインパクトが・・・」

 ショーコのアパートに着いた二人は、キッチンの冷蔵庫前のスペースに十七本のコーラを並べた。

「全部一度に使うわけじゃないし。どうせ飲むからいいでしょ」

「おお、よかったよ!さつきちゃんが中身をどうするか心配してたんだ。空のペットボトル欲しさに、ランニング中の運動部員をうちに寄らせて消費させるとか。そういう事を考えているのかと」

「いや、そんな面倒なことするぐらいなら捨てるし。あんたんち五百のペットボトルもけっこうあったよね」

 さつきはショーコの部屋の台所の隅にある大きな袋を見た。


「うん、大体そこに入ってるのは、あ!まさか」

「もう一回綺麗に洗って。わたしこっちに入れ替えるから」

 さつきは腕まくりをして、手を洗った。

「なるほど、移し替えていってんごのペットボトルを空に、ね。それなら全然いい。許容範囲内だよ、普通に飲めるし!」

 

 さつきとショーコは流れ作業で一・五のペットボトルのコーラを空の五百に移し始めた。そして七本のコーラが空いたとき、

「さつきちゃん、もう五百のなくなったよ。結構移したねえ」

 ショーコは五百のペットボトルでいっぱいになった冷蔵庫を見た。

「あんたの冷蔵庫がほぼ空でよかった」

「でも冷蔵庫の真ん中のとこ開けといてって。なにいれるの?」

 冷蔵庫は三段で分かれており中央部だけが空いていた。


「五百のペットボトルの量から考えて、ちょっと別のものに入れないといけないかなって」

 さつきは台所の棚を開け、ラーメンどんぶりを二つ、ボウル、マグカップを取り出した。

「え!ま、まさかさつきちゃん。それに」

「ほら、洗って並べて。ラップしてれば炭酸抜けないでしょ」

「なんか断水感がすごいんだけど・・・」

 ショーコはシンクと周辺に洗った食器を並べて、さつきと一緒にコーラを入れた。


「これで八本ね」

 さつきは空いたペットボトルを洗い、その横でショーコはボウルに入ったコーラをちびちびと飲んでいた。

「うう、こんな力士サイズの入れ物でコーラを飲んだのは初めてだよ」

「ほら。空いた大きいほうペットボトル下に持っていくよ」

「え、ちょっとわたしこれがあるから」

 ショーコは両手で抱えたボウルを見せた。

「いいじゃない、そのまま持っていけば」

 さつきは両手で空になったペットボトルを持ちながらショーコに言った。

「やっちまったー、最後の残りは下で移し替えればよかった!」

「ほら、行くよ」

 さつきは両手にペットボトル、ショーコはコーラが入ったボウルと、片手に空のペットボトルを持って下に降りた。



「なるほど、数を合わせるために最後一本開けたかったんだねえ」

 ショーコはボウルに入ったコーラを飲みながら言った。

「そうね。きりがいいから」


 さつきとショーコは稲の周りを一列に四本、計十六本のペットボトルを使い囲っていた。

「これさ、ちょっと地面に穴を開けて埋めたら安定するんじゃない」

 屈んで土にペットボトルを押し付けながらさつきは言った。

「確かに。原始的ではあるゆえに効果的だね、さつきちゃん」

「土やわらかいよね。割と掘れそう」

「そうそう、ここ元々田んぼなんだよ。だから稲も育ちやすいのかなあ」

「なんか掘れそうなものある?スコップとか」

 うーん。ショーコは考えて自分の部屋を見上げた。

「思いつかないなあ。やっぱり土掘れそうなものって一般家庭にはないかも」

「あんたんちは一般家庭じゃないでしょ。ナイフとかフォークとかないの?」

「なんかその辺を使うと脱獄感があるねえ。でもごめん持ってなくて」

「じゃあさ、変わりになるものちょっと探してきていい?」

「おお、ありがてえ。頼むよー」


 数分後、ショーコの部屋に戻ったさつきは、わりばしを二組持って帰ってきた。

「ほら、これで柔らかくすれば」

「おお!コンビニのおまけ割りばしかあ、なるほどねえ。やってみるくよ!」

 さつきとショーコは等間隔になるよう目印を付けた後、割りばしを使って穴を掘り始めた。


「あっついねえ。さつきちゃん」

 ショーコは座り込んで、日陰に置いてあったボウルのコーラを飲んだ。

「もうお昼だし。でも今年の夏天気いい日多いよね」

 さつきは汗をかきながら、一心不乱に割りばしを地面に突き刺していた。

「いやあ、ボウルに入ったコーラを飲みながら、割りばしを土に突き刺している十七歳の美女を見る。なんか夏、だね」

「うるさい、さっさとあんたの分掘りなさい!」

「ちょっとは休まないと。さつきちゃんも水分補給をだね。さっきの五百のコーラ一本持ってくるよ」

 ショーコが立ち上がろうとすると、

「あ、それならわたしの鞄の中に入ってる水持って来て」

 さつきは立ち上がって背伸びをした。


「いいよお、ショーコのおごりだよ。持ってきなー」

「いや、だって。捨てたペットボトルだし、なんか不衛生っていうか」

「え、そんな・・・。ひどい。あれ二十本あるんだよ!」

「ああ、ごめん。うん、大丈夫だよ。ちゃんと洗ったし。ただ、わたしは水でいいかなって」

「ぐ、ただ自分はっていう。これは理恵ちゃんに安く売ってしまうしか」

「あ、そうだ。明日は理恵も呼ぼう」

「うんうん、いいねえ。理恵ちゃん体力あるから、いい働き手になるよ」

「そうだ。後でイノシシ聞いてもらっていい?わたし塾の後だから十時半頃向こう着く感じになると思うけど」

「うん、聞いてみるよ。大佐に」

「じゃあ、ちょっとわたしも一回休む」

 さつきは掘っている途中の場所に箸を差した。

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