イルミネーション工作(1)
八月二十日 午前十一時 ショーコ宅
「ねえ、あれなんなの?」
さつきは二階のショーコの部屋の窓から外を眺めていた。
ショーコが住んでいるアパートは、道路側の入り口以外は田んぼに囲まれていたが、建物の裏側には田んぼとの間に少し距離があり、さつきはそのスペースにある縦、横共に一メートル程度の場所で育っていた稲を見ていた。
「ふ、とうとう裏庭の異変に気が付いたね。さつきちゃん」
ショーコはさつきの横に並んで言った。
「なんで田んぼの横に、小さな田んぼみたいなのがあるのよ」
「説明しよう。さあ、下に降りようじゃないか」
ショーコはさつきの肩を叩き、玄関に向かった。
「いや。だからあれなに?」
「まあまあ、詳しくは下で現物を見ながらだね」
さつきはショーコに続き外に出た。
「わたしはねえ、さつきちゃん」
さつきとショーコは稲が育っている場所の前に立っていた。
近くで見るとその区画だけ、周りの土とは少し状態が違い、さつきは、なんでこんなものが。と呟き稲を少し触った。
「ミステリーサークルが作りたかったんだよ」
「はあ?」
「ほら、あれだよ。畑とかの作物が倒れててだね、それが幾何学模様とかに」
「ミステリーサークルは知ってるけど。そういう意味じゃなくて、それとこれと何の関係が?」
「ここで唐突に話は去年にさかのぼるんだけど。この辺のね、田んぼ持ってる人に何人か聞いてみたんだ。ミステリーサークル作っていいですか?って」
「いや、だめに決まってるでしょ・・・」
「そうなんだよねえ。全部断られてさあ、じゃあ自分でサークルの土台から作るしかないかなって」
「それはいいけど、あんたこれいつから」
「去年の冬だよ、土づくりから始めたんだ。大家さんがいい人でさあ、場所も提供してくれて。がんばれって」
「まさか、ミステリーサークルを作るためにとは思ってないでしょうけど」
「そうだよ、ここまでくるのに」
ショーコはしゃがんで土を泥状の土をすくった。
「知ってる?稲ってさ、よく見る植える状態のあれ、こうちっちゃいやつ。あれで買うと高いんだ。だからわたしは一旦別の場所で種から育てて、それで植えられる状態にしたんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「地味にさつきちゃんいるときとか、外で水やってたんだけど気付かないんだもん」
「ここで稲を育ててるとは思わないでしょ!」
「そして時期は来た。たった今来たよ。さつきちゃんが気づいたのが、いいきっかけに」
「そこまでやった稲でサークル作るっていうのは、どうかしてると思うけど」
「大丈夫、稲って強いんだよ!写真撮ってすぐ立ててあげれば問題ないから、台風にだって耐えるし!秋になったらさ、みんなで食べようよ。ショーコ米と名付けてるんだー」
「ショウコマイ?ああ、あんたの名前ね。小古米だと思った」
「小さい上に古い米って・・・。そんな米誰も食べてくれないよ、うう」
「食べる。食べるから。でも形ちゃんと考えといたほうがいいんじゃないの?カタログとかみて」
「確かに。髪切るみたいなもんだよね、下手したら取り返しつかないことに」
「なんか見本みたいのあるでしょ、やるならせめてちゃんと見てからにしたら」
「おしおし、では一旦部屋に戻って会議だね」
ショーコは近くにあった水道で手を洗った後、シャワーヘッドが付いたホースで稲に水を掛けた。
「ほら、こうやって水をあげるんだよ」
「それ以外のやり方ないでしょ、普通に」
「ほら、さつきちゃんもやってみなよ」
ショーコはさつきにホースを渡した。
「こんなの別にやっても」
さつきは稲に水を掛けた。
「どうだい?掛けた感じは」
「思ってたのと一緒。それ以外何て言えばいいのよ」
よしよし、そう言いながらショーコはさつきからホースをもらい水を止めた。
「あ、この流れ。またなんか考えてるんじゃないでしょうね!」
さつきはホースを巻いているショーコに近寄った。
「な、なんだい。さすがに何にもないよ」
「ほんと?後で一緒に倒さないとひどい目に合う、とか考えてるんじゃないでしょうね」
「さすがにそんな状況は。仮に死体が埋まってたとしても別に問題なさそうな」
「ちょっと待って。その死体が水の事故で死んだ人だったらどうするのよ!」
さつきは部屋に戻ろうとするショーコの腕を掴んだ。
「誤解だよ!さつきちゃん、死体が埋まっているというのはあくまで例えで」
「それならいいんだけど。あんた何考えてるかわからないとこあるから」
「そ、それは。その、むしろさつきちゃんのほうが・・・」
ショーコはうつむいて上目遣いでさつきを見た。
「あんたにだけは言われたくない!」
「いやあ、過去の実績と経験からの正直な気持ちだよ。とりあえず、部屋で過去のミステリーサークル画像をいろいろ見てみよう!」
「いいんじゃない。好きにすれば」
さつきとショーコはこれまで見たミステリーサークルの話をしながら、部屋に戻った。