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十五前後物語(5)


 

 八月十七日 午後三時十分 夕日がよく見える海



「思ったより人いるね」

 さつきは自転車から降りて鍵を掛けた。

 夕日がよく見える海は海水浴場になっているようで、周辺には四、五十人の人が泳ぎ、遊び、またくつろいでいた。


「おうおう、ここが夕日がよく見える海だね!あ、さつきちゃん。あっちに店が!海の家が!」

「もう。すぐそれ?」

「あ、高野さん。でも靴がそれだと」

 カメ子はさつきが履いていたパンプスを見た。


 さつきとショーコはイノシシのバイトに行くということで、白いシャツ、黒のスカートの礼服を着ており、ショーコはくるぶし丈の靴下にスニーカー、さつきは黒の靴下に黒のパンプスを履いていた。

 カメ子はバイトに行く前に散々迷った結果、制服を着用していた。


「ほら、やっぱり買ってよかったよ!ビーチに行くためのサンダルを!」

 途中コンビニによって海に行く前にいくつか買い物をしており、サンダルも三足購入していた。

「まあね。それ以前に服装がって思うけど」

 さつきはショーコとカメ子を見た後、下を向き自分の服を見た。


「大丈夫、大丈夫、親戚の法事帰りに海に寄った三人にしか見えないよ!」

 ほらほら。ビニール袋からサンダルを出し、さつきとカメ子に渡した。


 三人はサンダルを履いて海に向かって歩き出した。




「おお!砂が、砂が熱いよ、さつきちゃん」

 ショーコは飛び跳ねながら進んでいた。

「今日天気いいよね」

 さつきは強い日差しを避けるように手をかざして海を見た。

「あ、そうだ。高野さん、わたしなんか買って来るから!」

 カメ子は海の家を指差して走り出した。

「いや、亀山さん!ちょっといいって。そんな」

 さつきは海の家に向かったカメ子を追いかけた。


「がんばってねー」

 ショーコは二人に向かって言い、コンビニで買った半透明のビニール袋を取り出した。



「ねえ、これなに?」

 両手で焼きそば、ジュース、フランクフルトを持ったさつきはショーコを見た。

「ほら、ここで三人が休めるんだよ!」

 

 ショーコが指差した先に、ビニール袋を三、四枚繋ぎ合わせた長方形の敷物のようなものが三つ並んでいた。


「ここがさつきちゃんで、ここがカメ子ちゃんだよ。そしてこっちがわたし」

 それでね、ショーコは三つの敷物の下に、正方形にしたビニールの敷物に座った。

「ここに座ってみんなで食べるんだよ!」

「なんか、ままごとじみてきてるけど」

 さつきはショーコの横に座った。

「おお、ありがてえ。焼きそばじゃあ!」

「亀山さんもすぐ来るよ。あんたも好きなもの買ってくれば?」

「おお、じゃあ。遠慮なく」


 ショーコが買ってきたホルモン焼きを見て、さつきは眉をしかめ、動物の内臓を漬け込み焼いて食べるなんて。と言い放ったが、ショーコは、うまい、うまいと言いながら食べ、追加でもう一つ買ってきた。カメ子は焼きそばを食べジュースを飲んだ後、ちょっと休みたいかも。と言い残しショーコが敷いたビニール袋の上で横になった。


「カメ子ちゃん、イノシシバイト頑張ってたからねえ」

「確かに、一番動いてたかも。あ、そうだ」

 さつきは端末を持って立ち上がり、ショーコとカメ子から離れ、十分後ペットボトルのお茶を手に持ってさつきは戻って来た。



「おお、さつきちゃん。お茶なの?もっとトロピカルなやつあったのに」

「連絡してきた。今日塾行けないって」

「ああ、そういえばそんな話もあったような」

「・・・あんたたち完全に忘れてたでしょ。とりあえず、あんたが車にひかれて整形外科に行ったけど、頭打ったから脳神経外科もって紹介されて、その脳神経外科受診したら検査入院が必要って言われ、でもベッド空いてないから今日は帰されることになって明日の朝に来て欲しいと。ただ脳内出血の可能性もあって、あんた一人暮らしだし初期対応が遅れたら後遺症が残るかもしれないって言われたから、とりあえずわたしが様子見てるってことになってる」

「お、おお。わたし車にひかれたんだね・・・。そして割と大変な状況に」

「まあ別に検査して問題なかった、でいいでしょ」

 さつきはお茶を飲んだ。


「でもわたしも疲れたかも。少し横になる」

「おうやあ、ではわたしも」

 さつきとショーコはカメ子と並んで横になった。そして暑いね、暑い。寝れる?寝れない、のやり取りを何度か繰り返した後、カメ子を含め三人は静かになった。





「えっ!」

 飛び起きたさつきは周りが薄暗くなっているのに気付いた。

「ちょっと!ねえ、ショーコ!亀山さん」

 寝ている二人を揺り動かした後、さつきは夕日が目に入った。


 砂浜から見て正面に大きな夕日があり、掛かる雲も含め空全体が染まっていた。


 さつきはしばらく見とれた後、二人を起こし、三人はビニール袋に座って夕日を見た。


「なんていうか寝起きだけに、夕日というか朝焼けに見えるというか」

 ショーコは置いていたジュースを飲んだ。

「でも高野さん。これすごいね、きれいだね」

「これは見に来てよかったかも」

 体育座りのさつきは夕日をじっと眺めていた。


 日が沈み、暗いなか片づけをしていると、ショーコが、ああ!と言いながら端末を見ていた。

「どうしたのよ?」

 さつきはビニールを畳んで袋に入れた。

「みなさん、残念なお知らせが。現時刻を持って最終電車が無くなりました」

 ショーコは端末を握りしめ、下を向いて言った。

「はあ!ゴミは目もゴミか。早過ぎるだろ!」

 カメ子は持っていたゴミ袋を砂に叩きつけた。

「でも亀山さん。来るときに四時間掛かってるし。それにバイトの駅から帰るのって」

「あ、確かに・・・」

「とりあえず選択肢が二つあるよ。出来るだけ家方面に近づくか、それともここで野宿するか」

「野宿って・・・。なんか宿とかないの?」

「ちょっと調べたんだけど、空いてなくて。さっきの竜宮城っぽいとこは空いてたけど。高い部屋しかなくて一泊四万七千円しかも税抜き、そして一人。だから十五万ぐらい?」

「ばかじゃないの!あるわけないでしょ!」

「高野さん、ゴミの目じゃなくてわたしたちも探して見ようよ」

「うん、そうね」

 ゴミを片付けた後、カメ子とさつきは端末を操作し旅館を探した。


「うーん、えろいとこなら空いてるんだけどなあ。でもなんか色々ルールあるんでしょ?三人だめ、とか」

 ショーコはぶつぶつ言いながらサイトを見ていた。

「あんなとこ行けるわけないでしょ!もっと大手の旅行サイトとかじゃなくて、もっと地元っぽい、画像とかなくて名前と電話番号とかでまとめてるとこを」

「あ、でも。わたし旅館見たよ。ここ来るとき自転車からちらっとだけど」

「ほうほう、カメ子ちゃん。有力な情報だね」

「大竹旅館とかって。表札の横に小さく書いてて、それで覚えてる」

「先に電話したいけど、そこ出てこない」

 さつきは座り込んで端末を見ていた。

 

「さつきちゃん。刑事魂を見せつけるときだよ、最後は足で情報を集めよう!」

「刑事じゃないし。じゃあとりあえずそこ行ってみて、だめならまた考えよう」

 さつきは端末をポケットにしまい、立ち上がった。

「ごめんね、間違ってたら」

「いいよいいよ、カメ子ちゃん。旅館は他にもあるし、大丈夫!」

「おい、なんでお前が上から言ってんだよ、ぼけが!」

「ほら、もう遅いし。とりあえず向かいましょう」

 三人はゴミ捨て場に行き、その後カメ子を先頭に自転車に乗って旅館に向かった。




「さつきちゃん、これもろに家じゃない?」

「うーん、まあ普通の一軒家ね」

「高野さんごめん、やっぱり違ったかも」

 十五分後、築数十年経っていると思われる木造二階建ての前に三人は立っていた。


「あ、でも旅館だよ!」

 ショーコは玄関についていた大竹と書いた表札の横に、同じ大きさでの表札で『大竹旅館』と書かれたものを見つけた。

「亀山さんが言ってた通りね。まあこれはちょっと気になるかも」

「よかったあって。ここ、どうかな?」

 カメ子はさつきを見た。

「入ってみようよ!空いてるか聞くだけでも」

 ショーコは少し開いて光が漏れていた引き戸の玄関を開けて、すいませーんと言った。


「ちょ、ちょっと。ショーコ!」

「おい、ボケ。もっと準備がいるだろ!」

「大丈夫だよー、聞くだけだから」

 ショーコは振り返ってさつきとカメ子に向けて親指を立てた。そして再び、誰かいませんかーと家の中に向かって言った。


 はあい、今いくからあ。ちょっと待ってえ。と家の中から声がして、さつきとカメ子も玄関の中に入った。


「あ、すいません。今日なんですけど泊まれますか?」

 ショーコは玄関に出てきた六十代ぐらいの女性に言った。

「今日?三人?」

「そうです。いくらですか?」

「大丈夫。七千五百円。現金、前払いで」

「いいって。どうする?」

 ショーコは振り返って二人を見ると、さつきとカメ子は二人共うなずき財布を取り出した。そして、さつきが四千円、カメ子が二千円、ショーコが五百円玉三枚を出し、六十代女性に手渡した。


 現金を受け取った後、部屋は二階の一番奥で鍵は中に入ってる。トイレ、風呂は一階。使う時は札をひっくり返し使用中の面にすること。家族用とプレートが貼っている所は、家族の風呂トイレだから開けない。玄関は夜十時で鍵を閉めるからそれ以降外出出来ない。と説明を受けた。そして最後に、

「そうめん食べる?」

 と六十代女性は玄関横の廊下の奥を指差した。


「え、そうめん、ですか」

 さつきが戸惑っていると、はい、食べます食べます!とショーコが割って入った。


「じゃあ、こっち」

 六十代女性が歩き出し、三人はそれに続いた。

 玄関を入るとすぐ目の前に階段があり、その横が廊下、そして奥に家族のリビングダイニングがあるようだった。


「ちょっと、なんであんたそうめんなんて!」

 さつきが小声でショーコに言った。

「さつきちゃん。現地の人が食べ物を進めたら断っちゃいけないんだよ。最悪死ぬから」

「おい、大丈夫なのかよ!てめえまた勝手なことを!」

 カメ子は後ろからショーコの耳元で言った。


「ふ、まあ一つ確かなことがあるとすれば『振り返ってみたらあれは正解だった』明日の朝ここを出る時、二人がこう言うってことだね」

 六十代女性に続きのれんをくぐる瞬間、ショーコは振り返って笑った。

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